『おっさんずラブ』が描いてきた“本当に大切なこと”  過去作の振り返りと新シリーズへの期待

『おっさんずラブ』が描いてきた“本当に大切なこと”

 ついに『おっさんずラブ』の新章が始まる。10月クールのドラマ陣の中で、遅めのスタートを切ろうとしている『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)。2018年、たっぷりの愛と優しさとトキメキで視聴者の心を鷲づかみにして離さなかった奇跡のドラマ『おっさんずラブ』の続編だけに、多くの人が高鳴る鼓動を抑えきれずにいることだろう。しかし同時にこう感じずにはいられない。我々は、「イン・ザ・スカイ」編に牧凌太役の林遣都をはじめとする天空不動産の面々がいないという発表があった日にできてしまった、この大きな喪失感を埋めることができるのだろうか。

 深夜の単発ドラマだった2016年版『おっさんずラブ』が、人気を爆発させることになった2018年の連続ドラマ版に繋がった。そして、その続編である、爆発あり海外ロケありの劇場版が公開され、天空不動産から本物の「空」へと舞台を移した、今回の新シリーズに辿りついた。あまりにも大きくなり手の届かないところに飛び立ってしまいそうな一抹の不安を感じながらも、この一連の作品の違いを分析することで、新シリーズへの期待としたい。

2016年版と2018年版の決定的な違い

 そもそも、『おっさんずラブ』は2016年、深夜の年の瀬特番3本立てのうちの1本として始まった。舞台のオフィスは文具メーカー。田中圭“春田”と吉田鋼太郎“武蔵”は一緒だが、連続ドラマ版の牧凌太のポジションに落合モトキ演じる長谷川がいた。48分に凝縮された形でありながら、2018年の連続ドラマ版と大筋の構造は共通する。演出上の共通点も興味深い。例えば、違う会社の設定であるにも関わらず、3人のお弁当を巡る戦いの場面における、屋上の三角の屋根のようなものが見える構造は同じだったり、序盤の流れが、ペットボトルから零れ出る水とトイレで流れる水の音などといった「水」の演出で繋がっている部分は共通していたりする。

 だが、大きく異なるのが登場人物のキャラクター造形である。48分という限られた時間のため、どうしてもメインどころの春田・武蔵・長谷川の物語が中心になってしまう。そのため、その他の登場人物たちの描写は少なかった。この違いによって生まれた個性が、連続ドラマ版の成功の主な要因であると同時に、限られた登場人物を中心とすることで2016年版は問題提起の力を生んだとも言える。

 連続ドラマ版なら金子大地演じるマロのポジションであるところの若手社員(葉山昴)は、マロにあった、天然で愛されキャラの要素が抜け落ちている。彼が目撃することによって、春田がゲイであると社内で噂が広がり、春田が嫌がらせを受け困惑する場面も描かれた。社会におけるLGBTに対する偏見を描いていたことも、連続ドラマ版との重要な違いである。誰もが戸惑いながらも互いの価値観を認め合い、受け入れ、性別や年齢を越えた恋に突き進んでいる連続ドラマ版にはない、「不寛容な社会」という、本来あるべき、外からの視点が投げ込まれていた。

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