キューブリックからなぜ離れられなかったのか? 元専属ドライバーが明かす、2人の関係性

 映画『キューブリックに愛された男』が11月1日より公開中だ。2016年のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリア・アカデミー賞)で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した本作は、スタンリー・キューブリックの専属ドライバーであったエミリオ・アレッサンドロの目を通して、キューブリックとの1970年の出会いから、キューブリックが亡くなるまでの30年にも及ぶ主従関係と友情を綴ったドキュメンタリーだ。

 今回リアルサウンド映画部では、アレッサンドロ本人に電話インタビューを行い、映画では描かれることのなかったキューブリックへの思いも含めて、話を聞いた。

「スタンリーが信頼してくれていたから離れられなかった」

ーーこの作品では、あなたとスタンリー・キューブリックの出会いから別れまでが綴られていますが、改めてキューブリックとの出会いについて教えていただけますか?

エミリオ・ダレッサンドロ(以下、ダレッサンドロ):もともと私はロンドンでタクシー運転手をしていたのですが、ある日、ホークフィルムという会社から、“あるもの”を運んでほしいと連絡をもらったんです。報酬が直払いということもあって、私にとっても非常に都合がよかったため、そこから2カ月間、とにかく彼らのオーダー通りにものを運ぶ仕事を続けていました。そして約2カ月後に、依頼元であるホークフィルムから、「これはスタンリー・キューブリック監督の仕事なんだ」と知らされたんです。そう言われても、私はその当時、“スタンリー・キューブリック”が誰だかわからなかったわけですが……。

ーーそこから約30年間、キューブリックのもとで仕事をし続けたわけですよね。途中で辞めて、タクシー運転手に戻るという選択肢もあったと思うのですが、なぜその仕事を続けることにしたのでしょう?

ダレッサンドロ:実は最初の2カ月間の間に、もっと条件のいい他の仕事の話もあったんです。ただ、そういうことを考える暇もなく、「次はこれ、次はこれ」というように、次に何を運ぶかという指示が絶え間なくきたのです。それと、スタンリー本人から「一度実際に会いたい」と言われたことがありました。それで初めて会った時に、私のそれまでのキャリアや私自身の話をしたのですが、最後に彼と手を握り合ったのです。そこで、自分の中で「この仕事をやっていこう」と心に決めました。彼が私のことを気に入ってくれて、私も彼のことを信頼できると思ったからです。

ーー映画を観ていると、特に後期は「現場から離れたいけど離れられない」という葛藤のようなものもあったように感じました。

ダレッサンドロ:実際に離れたこともありましたが、離れるたびにまた戻されたというのが正しいかもしれません。いくつもの映画が同時に進行していたのと、ひとつの作品に5年以上かかることもありましたから。私が離れようとすると、スタンリーが「行ってしまうのか……」と泣きそうな顔をすることもありましたし、私の仕事に対して、彼が信頼感を持ってくれているのがわかっていたので、なかなか離れられないところがあったのです。

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