『ボーダー』監督が語る、“ジャンル映画”に挑む理由 「いろんなことを自由に掘り下げられる」
「“ジャンル映画”だったら自分の作りたいものが作れる」
ーー今回の作品は原作が短編ということもあり、映画オリジナルの要素もふんだんに盛り込まれています。警察と子供たちの物語の部分は、あなたと共同脚本のイサベッラ・エークルーヴによるものが多かったそうですね。このパートが映画をより独創的なものへと導いているように感じましたが、この物語を映画に盛り込んだ背景について教えてください。
アッバシ:短篇だったものを長編映画にするために、いろんな要素を加えなければならなかったのは君の言う通りだよ。いわば、2つ目、3つ目のギアが必要で、アイデンティティーやラブストーリーとは違う側面で、バランスを取るためにも、もうひとつの違う物語が必要だった。警察と子供たちの物語の部分はそこから生まれた要素なんだ。ラブストーリーの美しい側面に対してのダークな部分、エモーショナルな重みが必要だと思ったんだ。「ティーナのような存在がもし人間界にいたら、きっとこういう仕事をしてるだろうな(笑)」と自然に思ったことだから、そこから生まれたものでもあるね。
ーーイランに生まれ、スウェーデンで育ち、デンマークの映画学校に進んだあなたのバックグラウンドも、本作のストーリーに一定の影響を与えているように感じるのですが、この物語のどういったところにあなた自身とのつながりを持ちましたか?
アッバシ:僕もアウトサイダーであるという経験を人生の中で何度もしているから、当然その側面には共感することができる。ただ、例えばいろんな国に行くことなく同じ場所でずっと育った人でも、同じような体験はするんじゃないかな。確かに僕がいろんな場所に引っ越したり移住したり旅をしたりしたことで、より理解するのに役立った部分はあるけど、一方で普遍的な経験でもあると思う。誰しもがアウトサイダー的な感覚は持ち合わせているものなんだ。僕がプライベートな意味で一番共感できるのは、実はヴォーレなんだ。ヴォーレを演じているエーロ・ミロノフも含めてね。フィンランド人の彼が、デンマークで演じているわけだけど、日本における韓国出身の方と同じように、デンマークでは二級市民扱いなところがあって、言葉にもクセがあり、完全にスウェーデンの言葉を話せるわけでもない。その部分は、僕にも分かるところがあって、気持ちが重なる部分でもあるんだ。
ーーティーナとヴォーレの造形にはものすごくインパクトがあります。この造形は最終的にどのようにして決まったのでしょうか? 何か参考にした作品、意識したものなどがあれば教えてください。
アッバシ:人間の中にあって「これは人間なのか?」と思わせるような異質な感じがして、目立ってしまうような要素を持ちながら、クリーチャーではなく間違いなく人間だと感じさせるレベルが必要だと思った。それで、『フランケンシュタイン』や『ゾンビ』など過去のモンスター映画を観た上で、様々な種類のヒューマンモンスターをリサーチし、それらのロジックや神話の起源を考えたんだ。その結果、たどり着いたのがネアンデルタール人で、『ハッピー・ゴー・ラッキー』『おみおくりの作法』などの作品で知られるイギリス人俳優エディ・マーサンからもインスパイアを受けてるよ。ファンタジーの世界のものからインスピレーションを受けたわけではなく、実際に存在するものからインスピレーションを受けて作っていったものなんだ。
ーー初監督作『Shelley』も本作『ボーダー 二つの世界』も、“ジャンル映画”であることが大きな意味を持っているように感じます。あなたが“ジャンル映画”にこだわる理由はなぜでしょう? 今後の監督作も“ジャンル映画”になっていくのでしょうか?
アッバシ:僕に映画というバックグラウンドがあるわけではないし、商業映画のファンでもないから、映画というものの中で自分の場所を見つけなければならない。その中で、“ジャンル映画”だったら自分の作りたいものが作れるかもしれないと感じているんだ。メインストリームの商業映画の中で、自分の興味を持っている作品ーー例えば実験的で、クレイジーで、シュールな作品ーーを作りたいと言っても、誰も出資してくれないだろうけど、ホラー映画を作りたいと言ったら出資を集めることができるからね。もともとコミックスを読むわけでもないし、いわゆる“ジャンル系”を僕が観ているわけでもないけれど、そのスペースであれば映画を作ることができるかもしれないし、“ジャンル映画”というのは、あるジャンルを設定として伝えることによって、その中でいろんなことを自由に掘り下げることができるというところが魅力だと思う。全ての映画はある意味“ジャンル映画”だと思うし、今政治的なことにすごく興味があるから、その政治的なテーマというものを“ジャンル映画”の中に置くことができれば、次の作品も“ジャンル映画”になると思うよ。
(取材・文=宮川翔)
■公開情報
『ボーダー 二つの世界』
ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
監督・脚本:アリ・アッバシ
原作・脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
配給:キノフィルムズ
2018年/スウェーデン・デンマーク/スウェーデン語/110分/シネスコ/DCP/カラー/5.1ch/原題:Grans/英題:Border/字幕翻訳:加藤リツ子/字幕監修:小林紗季/R18+
(c)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018
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