『仮面ライダーゼロワン』は“思考の限界”を壊してくれる 巧妙な脚本とフレッシュな映像の凄み

「新しい」を描くための「新しさ」

 また、『ゼロワン』の面白さはシナリオだけではない。意欲的な映像、フレッシュな演出の数々が、シナリオと融合して「新しさ」に繋がっていく。

 映像の印象というのは、非常に大事なものだ。AIロボの活躍という今より少し先の未来を描きつつ、「令和ライダー」という新たな看板を掲げるのであれば、そこに印象としての「新しさ」が不可欠になってくる。「新しい」を描くための、「新しさ」が求められるのだ。

 この雲をつかむような問いに答えたのが、パイロットを務めた杉原輝昭監督である。その持ち味は、「遊び心と尽きない工夫」、とでも言えるだろうか。

 第1話、クライマックスのアクションシーン。バックで流れる主題歌と共に、ゼロワンが初回の見せ場を披露する。グラスホッパー(バッタ)の力を宿した仮面ライダーであるため、そのアビリティの象徴は「跳躍」。いかに速く、的確に、縦横無尽に、跳ねるのか。敵怪人の攻撃を避けたかと思えば、空中に放り投げられた車やバスに次々と跳び移り、その距離を詰めていく。途中のゼロワンは思い切ってフルCGで動かしつつ、だからこそ可能な自由なカメラワークでアクション性を担保。

 そして空中に浮かぶバスの車内に突入するシーンでは、「フルCGのゼロワン」「合成処理を施したゼロワン」「実際のバスの中でアクションをするゼロワン」といった数種類の映像表現をカットごとに使い分けることで、ニューヒーローの活躍を見事に彩っている。これぞ「特殊撮影」「特撮」である。

 杉原監督は、2018年の『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』にてVR技術を応用した縦横無尽なカメラワークを取り入れ、多くの視聴者を魅了した。また、2015年の『テレマガとくせいDVD 手裏剣戦隊ニンニンジャー アカニンジャーVSスターニンジャー!百忍バトル!』でも監督を務め、等身大のヒーローが巨大な怪獣に向けて『進撃の巨人』の立体機動ばりにビルの合間を飛ぶ映像を、ミニチュアに合成する形で実現してみせた。その遊び心と工夫は、令和の新番組にも受け継がれているのだ。

 もちろん、仮面ライダーは一年間の番組のため、次々と脚本や監督を手がけるスタッフが入れ替わってく。スピーディーに構成されたパズルと、「新しさ」を印象づける意欲的な映像。この土壌にどのような幅が生まれていくのか、今から楽しみでならない。

 劇中では、シンギュラリティに達したヒューマギアが次々と描かれていく。人との関わりの中で、新たな感情を得るAIロボ。それは果たして、「使う側」であるはずの人間にとって、喜ぶべきことなのか。手塚治虫の『火の鳥』等で描かれたロボットとの共存、あるいはコンピュータに支配される世界は、もはやそう遠くない未来なのだろう。

 『ゼロワン』は、そんな「今」を切り取っていく。様々な職場で活躍するAIロボを目撃しながら、ぜひ、「自分だったらどう感じるだろう」と考え込んで欲しい。巧妙なパズルとフレッシュな映像が、その思考の限界を壊してくれるかもしれない。

■結騎了
映画・特撮好きのブロガー。『別冊映画秘宝 特撮秘宝』『週刊はてなブログ』等に寄稿。
ブログ:『ジゴワットレポート』Twitter

■放送情報
『仮面ライダーゼロワン』
テレビ朝日系にて、毎週朝9時〜
出演:高橋文哉、岡田龍太郎、鶴嶋乃愛、井桁弘恵、中川大輔、砂川脩弥、児嶋一哉(アンジャッシュ)ほか
原作:石ノ森章太郎
脚本:高橋悠也ほか
音楽:坂部 剛
プロデューサー:井上千尋(テレビ朝日)、水谷圭(テレビ朝日)、大森敬仁(東映)
アクション監督:渡辺淳(ジャパンアクションエンタープライズ)
特撮監督:佛田洋(特撮研究所)
監督:杉原輝昭ほか
企画協力:国立情報学研究所 仮面ライダー協力有志チーム
制作:テレビ朝日、東映、ADK EM
(c)2019 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/zero-one

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