役所広司演じる嘉納治五郎の最期 『いだてん』が描くオリンピックを開催することへの覚悟

「オリンピックは、やる」

 政治は「いまの日本は、あなたが世界に見せたい日本ですか⁉︎」と声を荒げるが、治五郎はその言葉を受け止めるだけで何も言わなかった。治五郎は政治を「東京オリンピック開催の重要人物」として見込んでいる。そんな政治からの言葉を黙って受け止める治五郎の姿が切ない。治五郎演じる役所の目には涙が滲んでいた。

 エジプトで開催されたIOC総会で、治五郎は世界各国から厳しい声を浴びせられた。しかしここでも治五郎の思いは一貫している。治五郎はまっすぐな目でIOC委員に訴えかけた。

「30年間IOC委員である私を信じて頂きたい」

 「ジゴローカノーを信じてください」という言葉は、人々の心を動かした。「嘉納治五郎」という存在の大きさを証明した瞬間だった。

 1938年春、改めて東京オリンピックの開催は承認された。けれど「最後の大舞台だ」と言い日本を旅立った治五郎は、船で帰国する途中に帰らぬ人となる。

 政治は平沢和重(星野源)からストップウォッチを受け取った。治五郎から手渡されたそのストップウォッチは動き続けている。治五郎はスポーツを愛し、オリンピックを求め続けた。治五郎が、その頑なにも、一途にも見える姿勢を貫いたからこそ、その意志は政治へと受け継がれた。

 次週は太平洋戦争が勃発するようだ。だがストップウォッチが動き続ける限り、治五郎の思いが断ち切られることはない。1964年に向けて物語は進み続けるのだ。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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