役所広司演じる嘉納治五郎の最期 『いだてん』が描くオリンピックを開催することへの覚悟

 9月29日に放送された『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第37回「最後の晩餐」。1940年の東京オリンピック開催が決まるが、日中戦争が始まった日本では、オリンピック反対論が沸き起こっていた。

 戦争により世界から孤立していく日本。それでも日本での開催を進めようとする治五郎(役所広司)と、今の日本と“平和の祭典”へのズレに苦悩する政治(阿部サダヲ)。オリンピック開催に葛藤する2人の姿、そして、日本のオリンピックに貢献し続けた治五郎の最期を描く回でもあった。

「オリンピックはやるんだよ! 何がなんでも!」

 世界から見た日本の現状を省みて「名誉ある撤退を」と訴えた副島(塚本晋也)に、治五郎は語気を荒げてこう言った。

 「撤退」を訴えた副島のように、政治も戦時色が濃くなる今の日本で開催することに疑問を抱いていた。政治記者として日本の情勢を、水泳総監督として日本のスポーツを見続けてきた政治。そんな彼だからこそ感じる「矛盾」だ。

 戦争と“平和の祭典”という「矛盾」に頭を悩ませる政治の心情を、阿部は丁寧に演じる。出征した人々へ後ろめたさを感じている選手たち。政治はその心情を察している。だが彼は総監督として、彼らを奮い立たせるように、そして自分に言い聞かせるように「来るよ、オリンピックは!」と強く訴えた。その後、練習に励む選手を見守る政治が映し出されるが、その表情は硬い。選手たちを励ましながらも、頭の片隅に「矛盾」がこびりついているようだった。

 エジプトのIOC総会に出席する治五郎に、政治は「返上するならご同行します。断固開催するとおっしゃるなら、行きません」と言った。政治の否定的な発言に驚きを隠せない治五郎だが、政治は土下座をしてまで返上を求めた。

「ダメだ。こんな国でオリンピックやっちゃ、オリンピックに失礼です!」

 阿部の鬼気迫る表情から、政治の決死な思いが伝わってくる。政治はオリンピック開催そのものに反対しているわけではない。「軍国主義となった日本での」オリンピック開催に反対しているだけだ。政治とスポーツ、両方の視点からオリンピックを見てきた政治の訴えを、阿部は涙を浮かべながら演じていた。公式Twitterによると、阿部は「田畑が治五郎にオリンピックを返上するよう迫るシーンは本当につらく、役所広司さんの表情がまた哀しくて、思わず涙がでてきました」とコメントしている。

 一方、治五郎はオリンピック開催を望む姿勢を変えない。政治に返上を迫られた治五郎は哀しげな表情を浮かべるが、断固として意志を曲げなかった。

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