『なつぞら』なつの姿から思う、子育ての“正しさ” 朝ドラの母親たちに寄せて

 子育てと仕事の両立でいちばん難しいのは、物理的な事柄もあるが、産後に変化した自分の身体が思った以上に変わってしまい、産前のように仕事ができないことの方が大きいように思う。そうして、自己肯定感がものすごく乏しくなることはとても辛い。だから、あんなに強気ななつでさえ弱音を吐くのだ。

 「仕事ばっかりしていて子育てをちゃんとできていない」と、なつが北海道の実家から助けに来てくれた母親・富士子(松嶋菜々子)にポツリと弱音を吐くシーン。母に預けて仕事ばかりしている自分に、なつは引け目を感じていた。その選択が正しかったかどうかは、なつにしかわからない。ただ、子どもに対して「我慢させて申し訳ない」とたびたび発言する姿は、気持ちはわかるが、そこまで自分を責めなくてもよいのにとも感じた。なつにとって仕事は金稼ぎではなく、自分が自分であるための手段のはず。仕事から喜びが生まれ、そのベースがあるからこそ子どもにも充分な愛を注ぐことができているように思う。子育てと仕事を天秤にかけているのではなく、どちらも私の一部。欲張りだと思われるかもしれないが、その分の努力だって惜しんでいないはずだ。そうして、なつの背中を見て優はイラストを描き、アニメ『大草原の少女ソラ』の放送を楽しみに待ち、母の故郷に行きたいと言った。それが答えなのではないだろうか。

 毎日一緒に居ること=愛情ではなく、愛情のかけ方はさまざまあり、遠巻きの大人たちが正解不正解を決めるものではないと思う。やりたかったことを後悔したり、子どもを責めてしまいそうになったりするくらいなら、自分自身が心地よくいられる状態を大切にして、子どもと向き合えることの方が大事なのではないかと思う。

 しかし、これはあくまでも、働くことが好きで仕事と子育ての両立を重視したい“私”の一意見だ。子育てをしていて、よく思う。子育ては宗教のようなもの。ああした方がいい、こうした方がいい、とネットや本でさまざまな意見が飛び交うが、すべてをつじつま合わせようとするのは全くもって無理なこと。子育てに“正解”なんてきっとないのだから、自分の選択に誇りを持ち、知らぬ間に常識として埋め込まれる「正しさ」の呪縛から解き放たれてほしいと、なつの姿を見て願っていた。

■羽佐田瑶子
ライター。映画会社、訪日外国人向け媒体などを経て、現在はフリーのライター、編集。関心事はガールズカルチャー全般。主な執筆媒体はQuick Japan、She is、テレビブロス、CINRA.NETなど。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人、岡田将生、小林隆、音尾琢真、北乃きい、清原翔、川島明、渡辺麻友、田村健太郎、平尾菜々花、貫地谷しほり、山口智子、草刈正雄 ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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