10分以上は無理!? 「スマホファースト」環境に対応する、ショートアニメーションの台頭を考える
ショートアニメーションが変えるアニメのかたち
ともあれ、こうした状況の中で生み出されるアニメーションは、その内容にも大きな変化が表れるだろう。
そこで、その考えられるゆくえを、最後に4つの視点から述べてみよう。まず言えるのは、――これはショートアニメーションだけの問題ではないが――「物語」の作り込みや視聴者のリテラシーの低下だ。いうまでもなくショートアニメーションでは、劇場用長編やテレビアニメシリーズのように、多くの伏線を張りながら起伏をつけてダイナミックに物語を描いていくタイプの作品は作りづらい。また、さきほど述べたように、それについていけるだけの視聴者もどうやら減っていきつつある。したがってそこでは、『ハッカドール』のような微エロをまぶしたシュールなパロディものか、『おジャ魔女どれみ お笑い劇場』のようなギャグもの、『リラックマとカオルさん』のようなゆるいほのぼのストーリーがどんどん増えていくことになるだろう。しかし、これはいわゆる日常系アニメやアイドルアニメなど、近年、他のジャンルのアニメでも起こっている全体的な変化に近い。
また、こういったショートアニメーションとは、もともとはいわゆる商業的な「アニメ」ではなく、非商業的でアートの文脈とも結びついた個人制作のアニメーションに多いスタイルだった。これもデジタル化の影響が大きいが、土居伸彰などが注目しているように(『21世紀のアニメーションがわかる本』フィルムアート社)、現代のアニメーションではかつてかなりはっきり違うものだと区分けされていた集団制作による商業的なアニメと個人制作による非商業的なアニメが最近急速に接近し、人形や砂を使ったストップモーションやシネカリグラフィなど、以前は非商業的なアニメでしか使われていなかったような表現技法が商業的なアニメでも見られるようになっている。たとえば、『リラックマとカオルさん』などもそういった作品に含まれるだろう。その意味で、ショートアニメーション的なものの台頭は、これまで以上に多種多様な表現が多くのひとの目に触れるアニメ作品で見られるようになるきっかけになるかもしれない。
3つ目だが、ひるがえってショートアニメーションがアニメのひとつのスタンダードになる世界においては、これまで作られてきたアニメも新たに「リサイクル」できる可能性もある。以前、氷川竜介が『モンスト』アニメの話も出しつつ、面白いことを指摘していた(「2016年は、日本のアニメーションにとって歴史に残るべき大変な年になった」、『熱風』2017年2月号所収)。いまのウェブ発のショートアニメーションはだいたい7分前後の尺になっているが、これを3本束ねると21分で通常のテレビアニメの本編枠とぴったり重なるのである。思えば、『サザエさん』や『オバケのQ太郎』など、1960年代のテレビアニメ(テレビまんが)は3本立てが多かったことも踏まえれば、旧作の30分枠テレビアニメ作品も、スマホ用に分割アレンジして若い世代に楽しんでもらえる可能性もあるのではないか。――この氷川の提言は、スマホファーストのショートアニメ世代に、かつてのアニメをどのように受け渡していくかという問題において、非常に重要な示唆となっているだろう。
そして最後に、こうした変化に、いち早く敏感に反応していたアニメーション作家の創作からヒントを得てみよう。現在、最新作『天気の子』が興行収入110億円を超える大ヒットを記録している新海誠である。知られているように、新海は長編の作家というよりも、出世作となった25分の『ほしのこえ』(2002)や3本の短編のオムニバス『秒速5センチメートル』(2007)など、もともと短編的なセンスの強いアニメ作家だった。そんな彼がまさに2010年代なかばの2013年に作ったのが、46分の『言の葉の庭』だった。
『言の葉の庭』は、新海自身がデジタルコンポジットを駆使して日本のアニメーションに導入したフォトリアルな風景表現が極限まで高精細に表現された意欲作だったが、じつはその演出意図を、彼は以下のように語っている。
「当時はちょうどiPhoneやiPadなどデジタルの液晶デバイスが普及し始めて、観客の視聴環境の変化を感じていました。映画館のスクリーンではなくデジタルの小さな画面で観ることを前提にした、高解像度の精細な映像表現をしてみたいと思ったんです。[…]劇場公開初日からiTunesでの配信も行いましたね」(インタビュー「観客との対話と共同作業で歩んできた」、『新海誠展』公式図録所収)
すなわち、『言の葉の庭』のハイレゾリューションな描写と尺の短さもまた、スマホファーストになりつつあったメディア環境に対する、作家の側からも鋭敏なリアクションだったのだ。だとすればこうした方向性も、今後のショートアニメーションのひとつの魅力となっていくだろう。
「テレビ」や「スクリーン」といった古い軛から解き放たれたアニメが新たに獲得した「ショートアニメーション」というかたち。ここからまた、まだ見たことのない新しい作品が生まれてくることを期待したい。
■渡邉大輔
批評家・映画史研究者。1982年生まれ。現在、跡見学園女子大学文学部専任講師。映画史研究の傍ら、映画から純文学、本格ミステリ、情報社会論まで幅広く論じる。著作に『イメージの進行形』(人文書院、2012年)など。Twitter
■作品情報
Netflixオリジナル『リラックマとカオルさん』
Netflixにて全世界独占配信中
出演:多部未華子ほか
監督:小林雅仁
脚本:荻上直子
音楽:岸田繁
主題歌:くるり「SAMPO」
監修:サンエックス“リラックマチーム”
アニメーション制作:ドワーフ
(c)2019 San-X Co., Ltd. All Rights Reserved.
Netflix作品ページ:http://www.netflix.com/rilakkumaandkaoru
リラックマごゆるりサイト:http://www.san-x.co.jp/rilakkuma/
リラックマとカオルさん特設サイト:http://www.sanx.co.jp/rilakkuma/rilakkuma_and_kaoru/
■公開情報
『天気の子』
全国東宝系にて公開中
声の出演:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、小栗旬
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:RADWIMPS
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
(c)2019「天気の子」製作委員会
公式サイト:https://www.tenkinoko.com/