『凪のお暇』実は似た者同士だった黒木華と高橋一生 “母”の存在を前に、2人は変われるのか

 考えれば、方法はいろいろあったはずだ。龍子に相談して、資金を調達するめどを立て、契約の日取りを変えることだってできたかもしれない。だが、それができなかったのだ。母親の出す空気に対する反射的な行動。龍子の信頼を失うかもしれないと考えられないほど、凪にとって母親のその眼差しが怖いのだ。心が支配されるというのは、思考が回らなくなるということ。

 そこで思い出されるのが、みすず(吉田羊)・うらら(白鳥玉季)母娘とのドライブシーンだ。凪は免許を持っているにもかかわらず、助手席に座るのが当たり前だと思っていた。それは、彼女自身の生き様を表すような言葉。自分が人生のハンドルを握る資格があるにもかかわらず、周囲=母親の視線というナビのままに進むのを見ているしかできない。本当は自分の力で、行きたいところに行けるはずなのに。

 会社を辞めたこと。モジャモジャのヘアスタイルで過ごしていること。都心のマンションを引き払ったこと。自慢だった恋人と別れたこと……母親から見たら「みっともない」と言われるような生活を、一時的に隠す嘘をつくのも、自分の「したい」を実現するための手段であれば致し方ない。実際に、その嘘のおかげで“「したい」を見つけたい“という願いは叶ったのだから。

 大事なのは、何が目的で、そのためのどんな手段を取るのか、自分自身でコントロールしていくということ。自分でハンドリングできるのであれば、嘘も方便となる。だが、その冷静な判断をするためにも、人との距離感が大切だということまで、凪はまだ気づけていない。

 人には、その人とうまくやっていくのに適した車間距離ならぬ人間距離がある。それは、どれも一定である必要はないし、他人の親子の距離と、自分のそれが同じである必要もない。だが、どこかで私たちは“普通“という言葉で、同じものを求めてしまいそうになるし、求められてしまうことが多い。

 そして親子のみならず、恋人でも、友人でも、同僚でも、すべての人間関係に、それぞれの適正距離をとること。それを見誤った人たちが「メンヘラ製造機」や「毒親」と呼ばれてしまうのではないだろうか。

 人は個であること。たとえ、血を分けた親と子であっても。「あなたの幸せがお母さんの幸せ」は聞こえはいいが、心のあおり運転になる可能性もあるのだ。そんな母親が、まさに“暴走“と言わんばかりの勢いでエレガンスパレスに乗り込んできた。

 とっさに慎二が、またも空気を読んで取り繕うが、事態は思わぬ方向へ。さらに、ゴン(中村倫也)の中には初めて嫉妬が生まれ、行き場のない感情がクラクションと共鳴する。それぞれが自分の人生を、どう動かしていくのか。もがく登場人物たちを見届けながら、私たちも自分自身の人生のドライバーであるのだと身が引き締まる。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『凪のお暇』
TBS系にて、7月19日(金)スタート 毎週金曜22:00~22:54放送
出演:黒木華、高橋一生、中村倫也、市川実日子、吉田羊、片平なぎさ、三田佳子、瀧内公美、大塚千弘、藤本泉、水谷果穂、唐田えりか、白鳥玉季、中田クルミ、谷恭輔、田本清嵐、ファーストサマーウイカ
原作:コナリミサト『凪のお暇』(秋田書店『Eleganceイブ』連載)
脚本:大島里美
演出:坪井敏雄、山本剛義、土井裕泰
プロデューサー:中井芳彦
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/NAGI_NO_OITOMA/

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