『プライベート・ウォー』監督が語る、“伝説の記者”メリー・コルヴィン 「仲間のように思えた」

「一番パーソナルな作品になったのは間違いない」

ーー本作を観た後に、鑑賞者にどのようなリアクションを求めますか?

ハイネマン:観てくれた人には、コルヴィンのような、紛争地を取材しているジャーナリストたちがどんな危険を乗り越えて物語を伝えているのか、より深い理解を持ってくれたら嬉しい。彼女が亡くなってからも、ジャーナリストに伴うリスクが減ってきているわけでは決してないからね。もちろん彼女が亡くなる以前にも、紛争を取材していたジャーナリストが亡くなってしまうことはあったけれど、彼女ほど名前のあるジャーナリストが亡くなったのは初めてだったから、世界中に彼女の物語が広まった。

 コルヴィンがキャリアをスタートさせた当時は、紛争・戦争ジャーナリストの人たちがたまたま戦争に巻き込まれて亡くなるリスクはあったけれど、コルヴィンのように政権・体制に対して意見をしたことでターゲットにされてしまい、命を落とすということはなかった。実際に、コルヴィンの家族が死後、アサド政権に対して裁判を起こして勝訴したそうだけど、その結果アサド政権がいかに意図的に、ジャーナリストを狙っていたかが分かった。コルヴィンは、アサド政権のような、批判的な声を抑圧するシステムの犠牲者になってしまったんだ。残念ながらそういったことは今でも世界で起こり続けている。

ーー近年では、フェイクニュースなどによって、ジャーナリズムの権威の低下も騒がれています。

ハイネマン:本当に悲しい状況だよね。君が言う通り、フェイクニュースは蔓延していて、サウンドバイトが政治的リーダーや権力者から発信されている中、一般の市民からすれば何が真実で何がフィクションか見極めにくくなっているという現状はひしひしと感じている。だからこそコルヴィンのような、真実を明かそうと追求している真のジャーナリズムを今こそ応援しなければいけないんじゃないかと思う。

ーー本作を撮り終えたことで、ハイネマン監督ご自身に達成感や変化はありましたか?

ハイネマン:達成感があったかは分からないけれど、今までの作品の中で一番パーソナルな作品になったのは間違いない。コルヴィンから強いつながりを感じて、仲間のように思えた。もちろん彼女の方が長く各地で取材をしてきて、重いPTSDを経験し、アルコール依存症にもなったり苦しかったとは思う。だけど、いろんな場所でいろんなものを観て、それを普段自分が住んでいる場所に持ち帰るという経験は僕も彼女と同じようにしてきた。ジャーナリズムだったり、世界の暗い部分に光を当てようとする姿勢だったり、彼女が象徴しているものは僕が信じているものでもあるんだ。彼女の思いや行動に、僕は撮影を終えた今でもすごく共感している。

(取材・文=島田怜於) 

■公開情報
『プライベート・ウォー』
9月13日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
監督・製作:マシュー・ハイネマン
脚本・製作:アラッシュ・アメル
製作:シャーリーズ・セロン
出演:ロザムンド・パイク、ジェイミー・ドーナン、トム・ホランダー、スタンリー・トゥッチ
主題歌:アニー・レノックス「Requiem for A Private War」
配給:ポニーキャニオン
2018年/イギリス・アメリカ/カラー/5.1ch/スコープサイズ/110分/英語/原題:A Private War/日本語字幕:松岡葉子/映倫区分:G
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公式サイト:privatewar.jp

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