『なつぞら』脚本家・大森寿美男が明かす、広瀬すずとなつの共通点 「僕の中では分け難いもの」
「広瀬さんが表現することが、なつにとっての正解」
ーー本作では内村光良さん演じるナレーションも印象的です。なつへの呼びかけは、どのくらい狙って書いているのですか?
大森:台本を書き始めたときに演出スタッフに、「僕は意地でも最終話まで、各話の最後には『なつよ~』とつけるから、明らかにいらないときは使わなくていいですよ」と言ったんです。編集段階だと、15分に合わせるために台本通りに終わらないこともあります。編集された映像を一回見せてもらって、映像の雰囲気に合わせて「なつよ」に続く言葉を考え直したりしていました。台本を書いているときは、明らかに言うことがなくても、無理やりひねり出して入れていました(笑)。
ーー19週のなつの結婚式でのナレーション、「私も写りたかったけど、やめておいた。ああなつよ、未来永劫幸せになれよ……」が印象的でした。
大森:よく受け止めてくれる人も、面白いと思ってくれる人もいらないと思う人もいるだろうと思いながらやっていますが、もう祈るしかないですよね。喋っているのがお父さんであることを印象付けられたらなと。毎週末に入れている「来週に続けよ」というのも、途中から失敗したかな? と思ったんですけど、今更やめるわけにもいかないでしょと(笑)。
ーー広瀬すずさんとは実際にどんなやりとりをしましたか。
大森:実はほとんど喋っていないんです。あまり現場に行っていないので、ほとんどお任せしています。広瀬さんは難しい役を自然体で強い表現でやってくださっているなと。なつは根本的にすごく孤独な人だと思うんです。人に依存できない性格で、人との関わりはすごく大事にするんだけども、踏み込んで自分のためにこうしてほしいと言えない。それで距離を少し取ってしまい、不安定な人間関係に感じてしまう。勝手なイメージですが、広瀬さんにも、自分の力だけで乗り切ろうとするところがあるのかなと。そんな彼女に、周りの俳優さんも協力しよう、支えようという気持ちになっているんじゃないかなと思います。そういう点は、広瀬さんの資質と、なつの性格が僕の中では分け難いものになっているんです。広瀬さんが表現することが、なつにとっての正解なんだろうと。
ーー訛りや、方言のバランスはどのように取り入れたのでしょう。
大森:話す相手によってどの程度方言を残そうかというのはすごく悩みどころでした。雪次郎(山田裕貴)がいたときは、十勝弁にした方がいいだろうとか、関係性によって変えたり。方言をチラッと標準語の中に出すのが、どうしても難しいんです。少しでも変えてしまうと、全体的にベタな方言になってしまったりするので、その辺りの難しさを感じながら、広瀬さんの感性に任せてやってもらっています。
ーー以前、山田裕貴さんにお話を伺ったとき、「大森さんが当て書きしてくれているのではないか」とおっしゃっていました。
大森:そのインタビュー読んでますよ(笑)。勝手に僕のイメージで当て書きしているんですけれど、その人の資料は読まないんです。山田くんがよく言っている「演劇の役者とはこういう人間で、すばらしい役者はこうだ」というものは、当時の新劇の名優さんたちが実際に残している言葉です。だから彼が普段思っていることは、当時の名優さんたちが思っていたことと同じなんです。
ーー他の俳優さんたちもそのスタンスで書かれているのでしょうか。
大森:そうですね。どうしてもその人を知ると取り入れたくなるので、勝手に想像した方が楽しいんです。ただ、役者さんに寄せすぎるとネタっぽくなってしまうので、なるべく距離を置いて見るようにはしています。