杏、ドラマ復帰作『偽装不倫』でアラサー女性を熱演! コメディで生かされる人間くささ

 2016年に「ほぼ日刊イトイ新聞」での糸井重里との対談「杏さんが考えてきたこと。」で、杏はモデルという仕事について、カメラマンやスタイリストやヘアメイクと同じスタッフの一員で役割の一つで「みんなの中心にいる花」ではなく、服を魅力的に見せるための「生きたハンガー」だと語っている。

 同時に、モデルだからと言って、かわいいって言われたいという気持ちは、私の中には存在しないとも語っている。おそらく女優業に対しても同じことを考えているのだろう。自分が目立つことは二の次で、女優は作品の一部。杏の演技には、そんな職人気質を感じる。

 また、『偽装不倫』の鐘子が顕著だが、杏の表情はどこか不安げで常に居心地が悪そうに見える。どんな役を演じても、明るさの奥に暗い影が透けてみえるのだ。

 杏は読書家で歴史オタクとしても知られているが、おそらく本を読む人特有の物事を考え過ぎてしまう思慮深さが演技に出ているのだろう。

 だから明るいコメディを演じても、真面目で内省的な人がうっかり抱えこんでしまう不安がにじみ出ているのだが、この暗さがスパイスとなって作品に深みを与える。この不安げな表情ににじみ出る人間臭さこそが、コメディにおける杏の最大の魅力なのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
『偽装不倫』
日本テレビ系にて毎週(水)22時〜放送
原作:東村アキコ
脚本:衛藤凛 
演出:鈴木勇馬、南雲聖一 
出演:杏、宮沢氷魚、瀬戸利樹、MEGUMI、谷原章介、仲間由紀恵ほか
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/gisouhurin/

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