今期、もっとも観るべきドラマは? ドラマ評論家が選ぶ、2019年夏ドラマ注目作ベスト5

3.セミオトコ(テレビ朝日系)

 突飛な設定という意味では3位の『セミオトコ』も負けてない。主人公はなんと蝉! イケメン男性に変身したセミオトコ(山田涼介)が、孤独を抱えた30代女性の元を訪れ、7日間だけいっしょに過ごすという優しい物語。

 脚本は連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)などで知られる岡田惠和。岡田の作風はリアルな群像劇と、ファンタジーテイストのキャラクタードラマに別れるのだが『セミオトコ』はファンタジー路線で、日本テレビで河野英裕プロデューサーと作っていた『泣くな、はらちゃん』や『ど根性ガエル』のテイストに近い。より遡ると岡田の出世作となった『南くんの恋人』や『イグアナの娘』といったテレビ朝日の「月曜ドラマ・イン」で放送されていたアイドルドラマを思わせるのだが、久々にテレビ朝日に帰ってきたことも含めて原点回帰的な作品だと言えよう。物語は全8話なので、一日約一話という作りとなるのではないかと思う。ファンタジーという手法を用いて、引きこもりとアイドルの話を展開しており、すごく優しい世界であるがゆえに、とても残酷で哀しいものが見え隠れするのは岡田作品ならでは。

4.スカム(MBS/TBSドラマイズム)

『スカム』(c)MBS

 4位の『スカム』は、最近話題となっている特殊詐欺(オレオレ詐欺)をおこなう反社(反社会的勢力)の内幕を描いたもの。原作は鈴木大介の新書『老人喰い ――高齢者を狙う詐欺の正体』(ちくま新書)。劇中に登場する特殊詐欺の研修風景は新書の中にも登場する。見ていて面白いのは物語の根底にあるのが、2008年のリーマンショック以降の大不況と豊かな年金暮らしの高齢者への憎悪であるということ。特殊詐欺や反社会組織を題材にしたドキュメンタリーやフィクションは近年盛り上がりを見せているジャンルだが、さながら『スカム』は和製『ウルフ・オブ・ウォールストリート』とでも言うようなピカレスクドラマとなっている。

5.だから私は推しました(NHK総合)

 5位の『だから私は推しました』は、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』、『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』と若者向けの攻めたドラマが続いているNHK「よるドラ」枠だが、今回は『ごちそうさん』や『おんな城主 直虎』(ともにNHK総合)などで知られる森下佳子が脚本を担当。物語は、キラキラOLの遠藤愛(桜井ユキ)が地下アイドルの栗本ハナ(白石聖)にハマるというもので、放送前は地下アイドルの内幕を描くサブカルテイストのドラマとなるかと思われたが、むしろ「いいね」中毒のキラキラ女子の闇の方がメインに見える。第一話の時点で、主人公がある犯罪を犯すことが暗示されており、続きがとても気になる。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

関連記事