『サ道』でサウナのお作法と名所を知ろう 全編に流れる『孤独のグルメ』に通じる心地よさ

 もうひとつ言うと、初回で「北欧=いわゆるサウナ」と、「みやこ湯=銭湯のサウナ」の両方を出したところにも、「初回なんだから、ガイドとしての役割を果たすためにはそうでなくてはいかん、両方出さなくてはならん」という意志が見える。これがどちらかじゃあがっかりだし、ふたつでも「いわゆるサウナ」と「スーパー銭湯のサウナ」ではダメだし、「銭湯のサウナ」と「スーパー銭湯のサウナ」ではもっとダメだ……「わからねえよ」と言われて終わりな気がしてきたが、でも、そういうものなのです。

 原作によると、作者のタナカカツキは、いわゆる街のサウナの雰囲気が苦手で足を踏み入れたことがなかったが、近所にできたジムに入会したらそこにサウナがついていた、というきっかけで、はまったそうだ。つまり、ここも原作とは変えているわけだが、なぜ変えたかという必然がはっきりしている、だから気にならない、ということだ。

 話がほぼ「ナカタアツロウ」のモノローグで進んでいくのも『孤独のグルメ』的な感じで心地いいし(ほかにやりようがないからかもしれないが)、音楽もすばらしい温度感だし(主題歌のCorneliusもエンディングのTempalayも劇伴のとくさしけんごも含む)、画の切り取り方や画の質感もきれい。というふうなディティールも、いちいち良い。

 あと、この回の登場人物の4人を観ていて気がついた。これ、身体で役者を選んだ、というところも、大きいんじゃないだろうか。そう、サウナや銭湯に行くたびにつくづく思うのだが、おっさんの裸ってだいたいにおいて見るのがつらい仕上がりじゃないですか。目を背けたくなるじゃないですか。その反動か、鍛えている、いい身体の男が入ってくるとじっと見ちゃったりするもん、俺。あ、自分はもちろん前者です。

 あんまりムキムキなのは不自然、でもあまりにだらしないのはテレビなので避けたい。というわけで、それぞれに差異はあれどいずれも見苦しくない身体つきの、この人たちだったのではないだろうか。

 と、ここまで書いて、ハタと気がつく。冒頭で僕が書いた「風呂場に誰もいなくて不自然」の件。あれ、リアルに現実をトレースして人を増やせば増やすほど、見苦しさが増す、それを避けるためにあえてそうしたのではないか、ということに。なるほどー。

 あと、「偶然さん」の「冷たいなあ。三茶の駒の湯の水風呂ぐらい冷たいなあ」というセリフには、「上野の北欧がホームの人が、三茶の駒の湯も好き? 遠くない? その両方に行く人なんて人いる?」と、疑問が湧いた。が、その次の瞬間、「いるよ! 俺だよ!」と気づき、「失礼しました」という気持ちになりました。

 「偶然さん」、営業マンなので、日々あちこち移動しながら空き時間があるとサッとサウナに入る、なので都内のサウナを把握しておられるのだと思います。「会議まで1時間半空いた!」と、サウナにダッシュするシーンが原作にあります。

 なお、「偶然さん」にそう言われた「イケメン蒸し男」は、「今のはヨコヤマ・ユーランド鶴見の水風呂ぐらいの冷たさですよ」と返した。横浜の鶴見です。この人も広いですね、行動範囲。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「CINRA NET.」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。

■放送情報
ドラマ25『サ道』
テレビ東京系にて、毎週(金)深夜0時52分~1時23分
原作:タナカカツキ『マンガ サ道』(講談社モーニングKC刊)
※講談社「モーニング」にて、 2019年5月16日より連載再開
出演:原田泰造 三宅弘城 磯村勇斗
   荒井敦史 小宮有紗 山下真司 荒川良々 / 宅麻伸
脚本:根本ノンジ 竹村武司 永井ふわふわ
音楽:とくさしけんご
主題歌:Cornelius 「サウナ好きすぎ」(ワーナーミュージック・ジャパン)
エンディングテーマ:Tempalay「そなちね」(SPACE SHOWER MUSIC)
監督:長島翔
チーフプロデューサー:大和健太郎
プロデューサー:五箇公貴 寺原洋平 松本彩夏 手塚公一 伊藤才聞
制作:テレビ東京 イースト・エンタテインメント
製作著作:「サ道」製作委員会
(c)「サ道」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/sa_una37/

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