現代に巣食う“社会的抑圧”に問題提起 映画3作に見る、ジェンダーロールに囚われた女性たちの姿

“身体”という檻に縛られた女の子:『Girl/ガール』

 先進国のなかでも離婚率が高く、事実婚が広がるベルギーではもはや“結婚”という檻に女性も男性も囚われていないのかもしれない。それでも、私たちは皆身体には囚われている。トランスジェンダーの15歳の少女ララ(ビクトール・ポルスター)はバレリーナ志望で国内有数のバレエスクールに編入が認められたばかり。シングルファーザーの父マティアス(アリエ・ワルトアルテ)はララのよき理解者であり、彼女のバレエのために引越しも厭わなかったほど。ララは数年後に性転換手術を受けるためにホルモン治療を続ける毎日だが、治療はなかなか効果を出さない。同級生の女の子たちの身体がどんどん女らしく成熟していくなかで、ララは焦る。しかも、ほかの生徒たちよりバレエで遅れをとっていることから人一倍努力しなければいけない彼女は、徐々に精神のバランスを失っていく……。

 監督は、本作で長編デビューしたルーカス・ドン。この作品で第71回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞したベルギーの新鋭監督だ。バレリーナになるために奮闘するトランスジェンダーの少女の記事に感銘を受けた彼が映画化したこの物語は、トランスジェンダーの苦悩を通して、現代に巣食う「女らしさ」や「男らしさ」といったジェンダー・ロールに問題提起しているとも言えよう。

 同時に、自分の身体に違和感を覚え、危険を顧みずに変えようとするララの姿は、近年問題になっている“ボディ・シェイミング”に重ねられる。ありとあらゆるメディアから、非現実的なモデルの体形や美しさが私たちの目に飛び込んで来る毎日。「痩せて美しくいないといけない」という“檻”から解放されれば、女性たちはどれほど幸せになれるだろう――。

 日本では、「靴(くつ)」・「苦痛(くつう)」・「#MeToo(みーとぅ)」をかけあわせたハッシュタグで、女性がパンプスやヒールを職場で強制されることに抗議する「#KuToo」が注目を集めている。イランでは、「#WhiteWendsday」という、女性がヒジャブやスカーフを頭にかぶる法律にプロテストするソーシャル・ムーブメントが広がっており、多くのイラン人女性が毎週水曜日に白いスカーフや洋服を身につけてSNSに投稿している。たかが靴、たかがスカーフだと思うなかれ。女性を閉じ込めている“檻”は世界中にまだまだたくさん存在しているのだ。

■此花さくや
映画ライター。ニューヨークのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカなどのマーケティング職を経てライターに転身。ファッションの背景にある歴史や文化から映画を読みとくのが好きで、「シネマトゥデイ」「 THE FASHION POST」 「bizSPA!フレッシュ」 「女子SPA!」 「日刊SPA!」「kufura」など様々な媒体にて映画コラムやインタビュー記事を執筆中。

■作品情報
『田園の守り人たち』
全国公開中
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
原作:エルネスト・ペロション、撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ、音楽:ミシェル・ルグラン
出演:ナタリー・バイ、ローラ・スメット、イリス・ブリー
原題:Les Gardienne
(c)2017 - Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathé Production - Orange Studio - France 3 Cinéma - Versus production - RTS Radio Télévision Suisse

『ニューヨーク 最高の訳あり物件』
全国公開中
監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ
出演:イングリッド・ボルゾ・ベルダル、カッチャ・リーマン、ハルク・ビルギナー
配給:ギャガ
原題:Forget About Nick/2017/ドイツ/カラー/スコープ/5.1ch/110分/字幕翻訳:吉川美奈子
(c)2017 Heimatfilm GmbH + Co KG

『Girl/ガール』
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほかにて公開中
監督・脚本:ルーカス・ドン
出演:ビクトール・ポルスター、アリエ・ワルトアルテ
振付師:シディ・ラルビ・シェルカウイ
配給:クロックワークス、STAR CHANNEL MOVIES
提供:クロックワークス、東北新社、テレビ東京
後援:ベルギー大使館
2018/ベルギー/105分/フランス語・フラマン語/原題:Girl/PG12

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