『偽装不倫』東村アキコ節を期待! 不倫を偽るという逆張り設定は現代の恋愛事情をどう捉えるか

 本作ほどに突拍子もない嘘でなくとも、大人になればなるほど恋愛に“大義名分”を求めてしまいがちだ。さらに厄介なのは、その大義名分は“相手の負担にならないように”という配慮から来ていると見せかけておいて、実のところ多くの場合それは自分自身が周囲から“イタイ”“可哀想”と思われたくないというところに結局は帰結する。目の前にいる大切な相手の言動をそのまま受け取ることが出来ず、相手と話している最中でさえも、頭の中を「今の発言の意図は何だろう?」「こんなこと言って、引かれたかな?」「相手の本心はどこにあるんだろう?」などと、直接相手にぶつけられない疑問ばかりが占めていく。口に出してしまえばいいものを、自分の脳内コンピューターをフル稼働させ、出口のない迷路に迷い込んでしまうのだ。

 恋愛においておそらく1つの「正解」なんて存在しないのに、「結婚」に繋がるような、相手に選ばれるような“正しい”振る舞いが出来たのか、自分自身を採点し答え合わせをしようとしてしまう。もはやそうなってくると恋愛の醍醐味からはどんどんどんどん遠ざかるばかりで、苦痛さえ伴うものとなってくる。だが、「結婚」「婚活」を意識した恋愛を始めようとするときに多くの人が陥りがちな現象ではないだろうか。

 鐘子のように“何者でもない”“何も手に入れられていない”自分に、自信がないからこそ、こちらも「選ぶ側」であることを放棄して「選ばれる」ことばかり考えてしまう。そのため周囲からの評価が気になってしまうのだ。

 またサイドストーリーとして描かれる既婚者の姉・葉子がついている“嘘”の行く末も見どころだ。鐘子とは打って変わってキャリアウーマンで、3年前にイケメンの商社マン・吉沢賢治(谷原章介)と電撃結婚、誰もが羨むような結婚生活を手に入れた葉子。だが、実は“独身”だと偽り、年下男・八神風太(瀬戸利樹)と不倫をしている。視聴者としては瀬戸利樹演じる風太の無邪気さ・ピュアさに癒されること必至だろう。

 原作者東村アキコと言えば、2017年に同じく水曜ドラマ枠でドラマ化された『東京タラレバ娘』が記憶に新しい。主人公がアラサー独身女性で、恋のお相手が年下男性である点、またそのこじらせた恋愛模様に対して主人公にだけ見える幻覚がツッコミを入れ痛いところを突いてくる点に関しては、近しいテイストを踏襲している。

 『東京タラレバ娘』が、結婚・出産などの「女性としての幸せ」と、仕事や趣味など「私の幸せ」について描かれているものだとしたら、本作は世間体や形式的な幸せに対して「本当の幸せ」とは何なのか? が一つの主題となっているように思える。傷つきながらそれでも自分の欲しいもののために手を伸ばそうとする鐘子と葉子がどんな選択をするのか、嘘から始まる恋がどう転がるのか注目していきたい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで2018年の劇場鑑賞映画本数は96本。Twitter:https://twitter.com/Tominokoji

■番組情報
『偽装不倫』
日本テレビ系にて7月10日スタート 毎週(水)22時〜放送
原作:東村アキコ
脚本:衛藤凛 
演出:鈴木勇馬、南雲聖一 
出演:杏、宮沢氷魚、瀬戸利樹、MEGUMI、谷原章介、仲間由紀恵ほか
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/gisouhurin/

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