『なつぞら』吉沢亮が体現する天陽の心の陰 『半分、青い。』律とも通じる苦悩

 そして、彼の抱える辛い感情は、成長してからも作中で描かれる。北海道には当分帰れないというなつの手紙を受け、なつを描いたと思しき絵を朱色の絵の具で塗りつぶしてしまうシーンもまさしくそのひとつである。普段は優しくて、穏やかで、どこか余裕のある雰囲気を見せつつも、彼もまた、なつたちと同様に、悲しみ、嘆き、弱さをあらわにする瞬間がある。「なっちゃん!」と呼びかける笑顔の一方で、ときどき映し出される彼の心の陰の存在に、観ている私たちはゆさぶられるのだ。

 朝ドラは決して主人公だけの物語ではない。『なつぞら』で言えば、今述べた天陽はもちろんのこと、例えば、先週の放送で大きな展開が描かれた雪次郎(山田裕貴)だってそうである。なつの周りの同世代の人間たちのドラマにもまた、心に刺さる葛藤、苦悩がたくさん散りばめられている。生い立ちも、置かれた境遇も、抱える苦悩の種類も異なるところがたくさんあるため、単純には比較できないが、それは『半分、青い。』(NHK総合)の律(佐藤健)もまたそうだった。主人公との間でお互いに影響を及ぼしたり、及ばされたりする間柄にある人物においても、心の陰陽が描かれることで、ハッと気づかされるものがあったり、より一層そのキャラクターに引き込まれたりすることがあるのだ。天陽や雪次郎たちの物語も含めて朝ドラなのである。

(文=國重駿平)

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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