『なつぞら』内村光良は“語りかけ”のスタイル 今期ドラマにみる「参加するナレーション」の進化

 この「補足から参加へ」というナレーションの立ち位置の変化は、今期の他作品でも目につく。

 たとえば、NHK朝の連続小説『なつぞら』はそのひとつだ。

 朝ドラのナレーションは、家事や出勤、通学の準備で忙しい時間に、画面を見ていなくても視聴者が話についていけなくならないようにする役割があるとされてきた。そういうこともあって、これまでナレーションにはNHKのアナウンサーや語りに定評のある俳優が起用されることも多かった。

 ただ今回で100作目となる朝ドラでは、ほかのパターンもいくつかある。

 たとえば、女性の一代記ものらしく、主人公やその近親の人物がナレーションをするケースも少なくない。最近で言えば、『カーネーション』や『あまちゃん』などがそうだった。

 そのバリエーションとして、語り手が「すでにこの世にいない人物」の場合もある。これも最近の例だと、『べっぴんさん』の母親役・菅野美穂や『半分、青い。』の祖母役・風吹ジュンがそれにあたる。もっと凝ったものだと、『ごちそうさん』の吉行和子演じる祖母が亡くなった後に家のぬか床として主人公を見守るというかたちもあった。

『なつぞら』(写真提供=NHK)

 『なつぞら』のナレーションを務める内村光良もそれと同じパターンである。内村は、広瀬すず演じる主人公・奥原なつの実の父親で、すでに亡くなっている。

 お笑い芸人としては、かつて『ひまわり』で萩本欽一がナレーションを担当したことがあった。主人公の家で飼われているペットの犬・リキの声という設定である。このときほど奇抜な設定ではないが、『なつぞら』のナレーションにも従来の朝ドラに比べて特徴的な点がある。

 それは、語りかけのスタイルになっている点である。毎回最後の締めくくりに内村は、「なつよ」と語りかける。父親として優しく見守るような言葉のときもあれば、芸人らしくツッコミのときもある。6月6日の放送では、口元にケチャップをつけたまましゃべるなつに対し、「なつよ、まず口を拭け」が締めの言葉だった。

 このように、『なつぞら』ではナレーションのドラマへの参加の度合いがより深まっている。内村自身は劇中に登場していない。だがそのことが逆に、声の存在感を高めている。

 しかも当初、内村の声となつの関係性は明かされていなかった。ところが第9話のナレーションで初めてなつの父親であることがわかり、「なつよ」という語りかけの意味も明らかになった。その瞬間、ナレーションと物語、そして視聴者の距離が一気に縮まる仕掛けである。

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