『なつぞら』井浦新が好演 ヒロインを導く“師匠”の姿は『半分、青い。』秋風にも重なる?

 仲のデザインしたキャラクターはどれも可愛らしく、なつにあげたウサギのセル画は北海道の十勝に住んでいた頃、部屋に飾られ彼女の原動力の一つとなっていた。なつにかけた「この絵にはちゃんと君らしさが出てたと思うよ。ちゃんと勉強すればアニメーターになれると思うな」という言葉も。けれど、その言葉が後々、少し喧嘩っ早い咲太郎から責められる事態になる。第51回では、なつが東洋動画の試験に落ちたのが納得いかない咲太郎が、仲に直接理由を聞くために会社に訪れる。中庭に現れただけで黄色い声が飛ぶ仲が、咲太郎から突き飛ばされ頭から噴水に落ちるシーンは、2人の性格が対比されたユニークな場面。演技派俳優として名高い井浦のイメージとのギャップもシュールである。第58回で、仲に呼ばれたなつが喫茶リボンでランチをご馳走になるシーンでは、口元にケチャップを付けたなつになぜつっこまないのかとSNS、さらには“朝ドラ受け”でお馴染みの『あさイチ』で博多華丸・大吉が言及するほど話題になった。その真意は明らかになってはいないが、仲の温厚な性格が表れているのは確かだ。

 井浦は仲を演じる上でなつにとっての「北海道から東京への物語の橋渡し役」とコメントしている。同じ東京へ導く存在として思い出されるのが、朝ドラ『半分、青い。』(NHK総合/2018年)のカリスマ漫画家・秋風羽織(豊川悦司)。彼の代表作「いつもポケットにショパン」を読んで、世界を知り、何かが開いた感覚を味わったヒロイン・鈴愛(永野芽郁)は、秋風に自身の漫画「神様のメモ」を差し出す。漫画の描き方を知らない鈴愛に秋風は、丁寧にダメ出しをしていくも、その個性的なセンスに「私の弟子になりませんか?」と驚きの提案をする(五平餅目当ても多分にあるのだが)。すっかり魅了され上京を決心する鈴愛となつ、さらには鈴愛に秋風の漫画を貸した律(佐藤健)となつに絵心を教えた天陽も、どこかイメージを被らせる。

 『なつぞら』は現在、全体の3分の1が過ぎた辺り。アニメーション編としてはまだまだ序盤だ。豊川悦司にとって秋風が新たな代表作となったように、井浦にとっても仲は俳優としてさらに飛躍するきっかけの役である。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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