『なつぞら』なつを取り巻く男子の中では異色の存在!? 岡田将生の憎めない空回りっぷり

 ここで彼は、十勝に住む妹と、東京に暮らす自分とが、まったく違う生き方・生活をしてきたことを端的に示したように思える。岡田の体現する咲太郎の粗雑さと図々しさ、神経の図太さは、戦災孤児でありながら、激動の時代をなんとか生き延びてきた彼だからこそのものではないだろうか。それが回を重ねるごとに、咲太郎からはにじみ出てくるのだ。だがそれに伴ったオーバーアクトがあまりに過ぎると、作品の世界観はめちゃくちゃになってしまう。このあんばいが難しいところなのだろうが、本作が多くのファンを獲得していることを考えてみるにつけ、これはつまり岡田が自身の演じ方に自覚的である証だと受け取れるのだ。見慣れてくると、次第にそれらは愛嬌に変わり、今ではいいアジにもなっている。咲太郎のことを憎めないのは、なにも“ヒロインの実兄”だからという理由だけではないのだ。

 岡田といえば、どこか空回りしていたり、スベったり、痛々しかったり、そういったキャラクターを多く演じてきた。他者に迷惑をかけてばかりの者たちだが、見方を変えれば、そこにはそれぞれの“懸命さ”も浮かび上がってくる。『告白』(2010)などをはじめ、近年でいえば『何者』(2016)、『伊藤くん A to E』(2018)、『そらのレストラン』(2019)で、方向性こそ違うものの、それらを体現する岡田の姿が見て取れるだろう。

 なつとの生活もはじまり、色々と順調に思える咲太郎。これから兄として、そして一人の男として、精神的に成長していく彼を岡田がどのように表現していくのか注目である。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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