水谷豊、『轢き逃げ』トークイベントで70年代と現在の違いを語る 「残した方がいいものもある」

水谷豊、70年代と現在の違いを語る

 時代の違いについて話が及ぶと、水谷は「日々過ごしていると気がつかないことかもしれませんけど、振り返ってみると変わってきているかもしれません。アメリカ映画もヨーロッパ映画も日本映画もそうでしたけど、ひとつに夢のような憧れがありました。いつも遠い世界のようなことだと思っていましたが、とてもいい世界に連れて行ってくれたり、登場人物と同じ人生を歩んでいるような気持ちにさせられる作品が随分多かったような気がします。最近は、遠いものではなく、すごく身近なものになったんですかね」と思いを巡らせる。「映画とドラマの中間的存在であった2時間ドラマも減ってきて、映画とドラマが分断されてきてしまっていると感じる」と言う宇野。水谷も「こればかりは気がついたらそういう流れが自然とどこからかできてくる。しかし、そこで『何が一番いいんだろう』とは常に考えていかなければいけない。新しいことをどんどん取り入れていくことももちろん必要ですし、残した方がいいものもあると思います。残した方がいいものまで古いものとして忘れ去っていくと、続いていかなくなるんじゃないかなと思ったりします」と自身の考えを述べた。

 何かを引き継ぐ監督としての使命感については、「そういう気持ちを持てるわけでもないんですよ。今回の作品も『TAP -THE LAST SHOW-』で初めて監督をやった時も、後で『どうやってやったんだろう』と思うんです。でも考えてみたら、俳優をやっている時もそう。『相棒』で杉下右京をやってる時は当たり前のようにやっていますけど、離れると『ああいうことよくできるな』と思うんです。監督、脚本、俳優という壁があまりない」と自身のスタンスを明かした。

 さらに、宇野が「最近ご覧になって印象に残った作品は?」と聞くと、水谷はアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』とクリント・イーストウッド監督の『運び屋』を挙げる。同じく監督としても役者としても活躍しているイーストウッドと比較されると、水谷は「同じも何もおこがましくて。単なるファンです。88歳であそこまでエネルギーを持って続けていることがもう本当に素晴らしいなと思います。普通ではできない」と力説。宇野に「イーストウッドみたいに、水谷さんが出ていない監督作も観てみたい一方で、水谷さんが出ずっぱりの監督作も観てみたい」と伝えられた水谷は、笑いながら「いや、どうでしょうね……。次できるのかどうか定かではないんです」と謙遜。宇野がすかさず「どっちも観てみたいです。是非お願いします」と念を押すと、客席からは大きな拍手が巻き起こった。

 最後に水谷は、「実は、以前『60代で(監督作を)3本やりたいと思っている』と口を滑らせてしまったんです。それで『60代で3本』ってみんなに言われていまして。映画というのは実際に次ができるのかどうか、なかなか難しいところもありますし、確実に『できる』と言える世界ではない。でも、もし3作目のチャンスがあって、できることがあるとしたら、また皆さんお会いしましょう」と挨拶をし、大歓声を浴びながらトークイベントを締めくくった。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『轢き逃げ -最高の最悪な日-』
全国公開中
監督・脚本:水谷豊
出演:中山麻聖、石田法嗣、小林涼子、毎熊克哉、水谷豊、檀ふみ、岸部一徳
配給:東映
(c)2019映画「轢き逃げ」製作委員会
公式サイト:http://www.hikinige-movie.com/

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