“現実”を学ぶ『おしん』、“希望”を学ぶ『なつぞら』 いつの時代も心に沁みる朝ドラのメッセージ

 対して、『なつぞら』の泰樹もこんなことを言う。

 「ちゃんと働けば、ちゃんといつか報われる日が来る。報われなければ、働き方が悪いか、働かせる者が悪いんだ。そんなとこはとっとと逃げ出しゃいいんだ。だが、一番悪いのは、人が何とかしてくれると思って生きることじゃ。人は人をアテにする者を助けたりはせん。逆に自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるのだ」と。

 2人の言うことは、人間関係の中で理不尽な目にあったときのことを言っている。『おしん』の場合は、理不尽な目に合ってどうにもならなくなったら、許せと言っていて、『なつぞら』の場合は、理不尽なことがあったら逃げてもいいと言っている。どちらも、理不尽であっても自分は悪い方向に流れなければ、報われると思わせてくれる。

 面白いのは、具体的に「逃げろ」とは言われていないおしんは、ギリギリのことがあったときには、よく逃げているということだ。『おしん』は、とにかく耐えるというイメージが独り歩きしていたように思えるが、奉公先で誤解を受けたとき、また別の奉公先で好きでもない人と結婚させられそうになったとき、父親に望まない奉公先に出されようとしていたとき、いつでもおしんは逃げることで前に進んでいるのだ。善人も悪人もいるからこそ、許して、そして逃げろということなのかもしれない。

 対して、『なつぞら』のなつは逃げても、元の場所に戻る人生だ。戻る場所に悪人はいないからこそ、誤解が生まれたとしてもそれは必ず解ける。『なつぞら』第6週では、なつを孫・照男(清原翔)と結婚させたいと願い、そのことで本当の家族になれると信じ込む泰樹と、本当の家族観をめぐってなつとの誤解が広がっている状況が描かれてきた。だが、これまでの『なつぞら』の描き方を見れば、その齟齬も最終的に解かれるであろうという目で見ることができるのだ。

 『なつぞら』の泰樹と『おしん』の俊作、よく似た2人の言うことは、同じようにヒロインを勇気づけるが、環境が違うため、メッセージも少し違ってくる。『おしん』からは、人間には良いものも悪いものもいて、どうにもならないこともあるからこそ許すことで自分は前に進むという道もあるという現実が学べる。一方、『なつぞら』からは、ひとりの人間の中には、良いところも悪いところもあるから分かり合えるはずだという希望が学べる。

 現代に生きていても、ふとした瞬間に誰かの悪意にさらされたり、考えの違いで分断される現実もある。しかし、ちゃんと伝えれば誤解は解けるということを信じて希望も持ちたいとも思うのだ。『おしん』のメッセージも『なつぞら』のメッセージも、時と場合によってはどちらも有用であるように思える。

■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

連続テレビ小説『おしん』
NHK-BSプレミアム午前7時15分~ 午前7時30分 全297回
作:橋田壽賀子
語り:奈良岡朋子
出演:乙羽信子、田中裕子、小林綾子、北村和夫ほか
音楽:坂田晃一

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