天才監督マイケル・ベイの“美”を求めてーー正気の『バンブルビー』と狂気の『トランスフォーマー』

高橋ヨシキ「マイケル・ベイ映画の世界」第1回

 本稿を書き始めるにあたって、「マイケル・ベイの監督作品は、その多くが不当に低く評価されている」という文章を何度か書いては消した。心情的にそう書きたいのはやまやまだが、彼の作品が低く評価されることの責を観客や批評家に負わせるのはあまりフェアではないかもしれないと思い返した。マイケル・ベイの狂った作品は「狂っていることのうちにある美」を基準点に評価するべきであり、通常の美学的な尺度に基づいて低く評価される傾向に異議を申し立てても仕方がない。

 その点でマイケル・ベイはスピルバーグに似ている。スピルバーグ作品の多くがつぶさに観察すればするほど異常で狂っていることに気付かされるのと同じように、マイケル・ベイの作品にも狂気が渦巻いているーーにも関わらず、マイケル・ベイの映画はメジャー中のメジャーであり、記録的な興行成績を上げたものも多い。その点もスピルバーグと共通している。だが何より興味深いのは、スピルバーグもマイケル・ベイも、監督の名前と特定の作品イメージが観客の印象の中で強烈に結びついているところだ。実のところ、この「作品イメージ」自体は彼らの作品とは決して完全に一致しているわけではない。にも関わらずそのような印象が醸成されるのは、ひとえに彼らの作品が時代を牽引するものであったことの証左に他ならない。驚くほど早撮りなところ、現場が大好きでワーカホリックなところなど、マイケル・ベイとスピルバーグの共通点はまだまだあるのだが、ここでは彼らがどちらも映像の世界「しか」知らずに育った生粋の映画人で、同時に直感的で卓越した映像センスの持ち主であることを指摘するにとどめておく。

 狂気が文字通り爆発するマイケル・ベイ映画の世界へようこそ。スローモーションで爆発を捉えるようにして、ベイの作品において何がどのようにして爆発しているのか、その爆発が何によって引き起こされたのか、被害はどの程度なのか……それを、爆発物処理班になったつもりで解明していきたいと思う。(第2回へ続く)

■高橋ヨシキ
1969年生まれ。映画ライター/デザイナー/チャーチ・オブ・サタン公認サタニスト。雑誌『映画秘宝』でアートディレクター、ライターを務める他、映画ポスター及びDVDのジャケットデザイン、翻訳、脚本など多彩なフィールドで活躍している。

■公開情報
『バンブルビー』
全国公開中
出演:ヘイリー・スタインフェルド、ジョン・シナ、ジョージ・レンデボーグ・Jr.、ジョン・オーティス、ジェイソン・ドラッカー、パメラ・アドロン、ステファン・シュナイダー
監督:トラヴィス・ナイト
原案:クリスティーナ・ホドソン
脚本:クリスティーナ・ホドソン、ケリー・フレモン・クレイグ
製作:ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、ドン・マーフィ、マイケル・ベイ、マーク・ヴァーラディアン
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、ブライアン・ゴールドナー、クリス・プリガム
配給:東和ピクチャーズ
(c)2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved. HASBRO, TRANSFORMERS, and all related characters are trademarks of Hasbro. (c)2018 Hasbro. All Rights Reserved.
公式サイト:bumblebeemovie.jp

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