『荒野にて』アンドリュー・ヘイが語る、孤立というテーマ 「自分にとってリアルな物語を語りたい」
「アメリカは非常に矛盾に満ちている」
ーーオープニングとエンディング含め、歩いたり走ったり車に乗ったりと、移動シーンがチャーリーの心情を表しているようで非常に印象的でした。
ヘイ:最初からこの作品はロードムービーのつもりで撮っていたんだ。チャーリーはいつも人生のなかを動いていたり、新しい場所に移っていろんな人に会ったりする。だから、動きのリズム感をキープすることを意識していたんだ。どのシーンでも必ず何か動きがある。カメラが動いているか、チャーリー自身が動いているか、あるいはフレームの中でどちらの方向に動いているか、旅をする中でどちらの方向に向かうのかなど、いろいろ考えたよ。この映画は、かなりゆっくりなペースではあるし、それほど大きな波があるわけではないけれど、何かに突き動かされていつも前に進んでいるんだ。
ーー今回、撮影はアメリカのポートランドで行われていますね。
ヘイ:そうなんだ。僕自身、長い時間をアメリカで過ごしたことがあるし、よくわかっていると思っていたんだけど、今回の撮影にあたって、いろんなロケーションを見て回って、とてもいい経験になったよ。アメリカはとても複雑な場所だと思う。この映画を撮ったのはトランプが大統領になる前だったから、今振り返ってみると感慨深くもあるね。アメリカは非常に矛盾に満ちている。すごくイライラするところもあるけれど、とても魅力的な場所。特に僕みたいな小さな島国であるイギリス出身の人間からしてみたら、とても惹かれるものがあるよ。
ーーアメリカの広大な風景を撮るにあたって何か参考にしたことは?
ヘイ:撮影前にはヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』などを観たけれど、実際に撮影に入ってその場所に行ってしまうと、その土地の感覚を感じることができたから、それを大切にすることにしたんだ。ロケーションは大事だけれど、キャラクターの内面を反映した環境の方がより重要だから、砂漠だったり街中だったり、その場所一つひとつがチャーリーの何を表しているのかを表現することが重要だった。だから例えば、チャーリーが砂漠にいるときは、砂漠の美しさではなく、チャーリーが自分の小ささや孤立感を感じている一方で、ちょっとした自由を感じていることを表現することを意識したよ。
ーーあなたは毎回、映画の中で孤独な人間を描いていますよね。見え方こそ違いますが、監督作に一貫したテーマがある。
ヘイ:その通りだよ。僕が興味を持っているテーマは、1人の人間が世界の中で孤立していることを理解しようとする、あるいはその孤立感を乗り越えるというもの。『荒野にて』の場合、チャーリーは世界から捨てられている。彼の家族も、周りにいる人も、そして社会さえも、彼を捨てているんだ。前作の『さざなみ』の場合、主人公のケイトは自分が持っていた夫婦関係という考え方が突然崩れてしまって、孤立感を感じる。その前の『ウィークエンド』の場合は、とても孤独を感じている人間がある人と繋がろうとするんだけど、その関係がなかなかうまく続かない。状況が違うと孤独感や孤立感の感じ方も変わってくると思うけど、重要なのは、僕自身にとってリアルな物語を語ること。そういう意味では、僕が映画で描いてきたことは今までの作品全てに共通しているし、今後撮っていくものもそうなっていくと思うよ。
(取材・文=宮川翔)
■公開情報
『荒野にて』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
監督:アンドリュー・ヘイ
出演:チャーリー・プラマー、スティーヴ・ブシェミ、クロエ・セヴィニー、トラヴィス・フィメル
配給:ギャガ
原題:Lean on Pete/2017/イギリス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/122分/字幕翻訳:栗原とみ子
(c)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017
公式サイト:https://gaga.ne.jp/kouya/