『PRINCE OF LEGEND』評論家対談【前編】 「“王子が大渋滞”は現代を象徴するフレーズ」

『プリレジェ』評論家対談(前編)

 劇場版『PRINCE OF LEGEND』が大ヒット公開中だ。本作は、TVドラマやゲーム、ライブイベントなど、様々なメディアと連動した、LDHが手がけるプロジェクト『PRINCE BATTLE PROJECT』の一環として制作。熱狂を生んだ『HiGH&LOW』シリーズの製作陣が再び集結し、劇場版ではドラマ版のクライマックスパートが描かれる。

 今回、リアルサウンド映画部では、圧倒的なルックスを誇る王子たちが、「伝説の王子」になるべくバトルを繰り広げる『PRINCE OF LEGEND』を掘り下げるために、ドラマ評論家の成馬零一氏と、女性ファンの心理に詳しいライターの西森路代氏による対談を前編と後編にわたってお届け。前編では、これまでの「王子様ドラマ・映画」との違いや、白井聖演じる成瀬果音の“ヒロイン”としての新しさをテーマに、それぞれの見解を明かしてもらった。(編集部)

現実世界と交錯する配役

成馬零一(以下、成馬):『PRINCE OF LEGEND』(以下、『プリレジェ』)の面白いところは、LDHが少女漫画テイストの「キラキラ映画」を直球でやっていることですよね。LDHの作品は、『HiGH&LOW』(以下、『ハイロー』)もそうだったんですけど、ド変化球で作っている感じなのに、妙な批評性が結果的に生まれてしまうことが興味深くて。『プリレジェ』も、どこまで作り手が自覚的なのかよくわからない(笑)。テレビシリーズを見た時は、すごくメタフィクション的な視点で作られた実験作に見えて、イケメンドラマという概念を解体しようとしてるんじゃないかと、ハラハラしました。

朱雀奏(片寄涼太)

西森路代(以下、西森):『プリレジェ』の製作陣は、『花より男子』に代表されるような、今までに作られてきた王子様ドラマ・映画は全部研究してるだろうなと思いました。それを反転させたりメタ目線で描いたり、多くの人たちがアイデアを出しながら作ったのかなという気がしました。それと、自分の周囲を見渡しても、京極兄弟(鈴木伸之&川村壱馬)が良いという人が増えている気がします。そんな風に思っていたら、『HiGH&LOW THE WORST』(EXILE TRIBEを中心に展開する「HiGH&LOW」シリーズと、人気不良漫画「クローズ」「WORST」がクロスオーバーした新作映画)で、THE RAMPAGEの川村さん、吉野北人さんが鬼邪高校に転入する新キャラクターとして登場すると発表されて、まんまと感情をレールに乗せられている感覚になりましたね。それも心地よいのですが。

【チーム京極兄弟】尊人(鈴木伸之)&竜(川村壱馬)

成馬:興行的な観点でみると、配役が『ハイロー』につながってるんですね。

西森:そうですね。『プリレジェ』でファンが得た感覚を次の映画を見る時にも引き継げるというか。『ハイロー』は松竹配給、『プリレジェ』は東宝配給なのに、映画会社を越えて世界は違うんだけど、どこか交錯している感覚が味わえるなと。LDHは、自分のところでいろんな企画をしているからこそ、そこが上手だなと思います。『プリレジェ』も、初代王子がTAKAHIRO、2代目が岩田剛典、そして3代目は誰だ? という設定ですが、これも、現実世界と交錯していて見ていてニヤっとしますよね。

近年のディズニー作品に通ずるアプローチが見える?

成馬:『プリレジェ』の第1話を見た時にすごいと思ったポイントが二つあって。一つは「王子が大渋滞!」というキャッチフレーズ。「王子14人を一気にみせて、一人一人紹介していこう」という全員並列で見せる手法に驚きました。この、「王子が大渋滞!」はすごいですよね。この言葉だけで10年はいろいろ考えられる(笑)。それくらい現代を象徴するフレーズだと思います。もう一つはヒロインの白石聖演じる成瀬果音。果音が王子たちに「男の妄想、押し付けるのやめてもらえますか」とはっきり言ったことに驚きました。

西森:王子にそんなことを言ったヒロイン、これまでいませんでしたよね。牧野つくしちゃんはちょっと思い出しはしますが、お前の行動はクソであるということは言ってきたかもしれないけれど、男の構造に対するダメ出しですから、もう一歩踏み込んだところにありますよね。

成馬:そう。大渋滞しているたくさんの王子たちと、そんな王子様を拒絶するお姫様という恐ろしい構図が打ち出されている。ディズニー映画でも、近年の作品では「王子様とお姫様」の関係に変化が起きていますが、そこに通ずるようなアプローチには驚きました。不思議ですよね、『ハイロー』がヤンキー漫画や、古今東西不良ものを統合したテーマパークみたいなものを作った結果として少年漫画的なものに対する批評性が発生した一方で、『プリレジェ』はイケメンドラマのフォーマットを過剰に作り込んだ結果、少女漫画的なものに対する批評性が生まれている。

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