『ブラック・クランズマン』スパイク・リーよる“映画的復讐”とは 2つの引用作品をもとに考察

スパイク・リーの怒り

 リーはファレル・ウィリアムスとの対談で、NYUフィルムスクール在学中『國民の創生』を授業の課題として鑑賞したと語っている。彼がNYUに在学していた1980年代当時は、人種差別的な内容に対する批判が公にはなされていなかった。よって教授はネガティブな要素には一切触れず、偉大な教材として学生たちに紹介した。怒りを覚えたリーは80年に短編『The  Answer』で『國民の創生』を黒人側の視点から再創生し反発。これが“映画の父グリフィスへの冒涜”だと教授の怒りを買い、一度は退学命令を言い渡されたという(結局、彼がすでに給付金を支払っていたこと、そして備品室のアシスタントとして熱心に働いていたことで退学は免れた)。

 1人の黒人映画監督の復讐心はこうした怒りを種に育まれることとなっていった。では、いかにして彼は本作内で映画的復讐を遂げたのか。

ミンストレル・ショーへのカウンター、逆ミンストレル

 白人が黒塗りをほどこし間抜けな黒人を演じることで黒人を笑いものにするミンストレル・ショーが、『國民の創生』の構造にも用いられていたことは先述のとおりである。『ブラック・クランズマン』では、黒人であるロンが白人訛りを使うことで、電話越しの相手であるKKK関係者を騙すことが物語の大きなキーとなっている。ロンの”ホワイト・ボイス”と呼ばれる白人の話法により、KKK幹部デビッド・デュークの信頼までまんまと勝ち取ってしまうところが笑いどころとなっている本作のプロットは、ミンストレル・ショーの手法を逆手に取った構造となっている。

クロスカッティングの利用

 『國民の創生』で初めて長編映画に用いられた技法・クロスカッティングは、異なる場所のカットを交互に切り返してつなぐ手法。1シーン1シチュエーションを捉えることしかなかった当時の映画に、二者の状況を同時進行で見せることで物語のドラマ性を視覚的に盛り上げることをもたらしたこの発明は、その後の映画表現の在り方を変えたといえる。『國民の創生』ではKKKのヒロイズムを演出する効果を発揮していたこのクロスカッティングを、リーは全く逆の目的で用いている。終盤、KKK入会式で会員たちが『國民の創生』を鑑賞しながら黒人の暴動に耐える白人、それを救いに向かうKKKの姿に歓声を送るカットと、老いた黒人男性がかつて白人から受けた迫害の様子を語り、それを囲む学生団体たちを捉えたカットがクロスオーバーする。かたや映画というフィクションによって築かれた虚構の事実に興奮する集団と、一方でその身に降りかかった忘れがたい悲しみの事実に怒りの声を上げる集団が、観客の目には対比的に映るのだ。

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