『ミスター・ガラス』が描く異色のヒーロー像 シャマラン監督初“ユニバース作品”に潜むテーマとは

『ミスター・ガラス』:『アンブレイカブル』への解と『スプリット』のテーマ性

 さあ、ついに『ミスター・ガラス』だ。本作ではこれまで紹介してきた2作品に登場するキャラクターが一堂に会する。そこに生じる繋がりやテーマ性をポイントごとに紹介する。

『アンブレイカブル』組の現在

 『アンブレイカブル』の2人は、その後どうしていたのか。『ミスター・ガラス』では現実世界(18年ぶりの続編)と並行して、同じぐらいの時が経っている。デヴィッドの妻は病気で亡くなってしまい、息子と二人でセキュリティー会社を自営する日々を送っていた。しかし、それは表向き。夜になると父の“散歩”を息子が無線でサポート。地元にはびこるヤンキーを、自警していたのだ。彼の存在はメディアを通して知れ渡り、「監視者」という呼び名がつくように。そしてイライジャはというと、その間ずっと精神病院に収容されていた。

3人の超能力者と、3人の理解者

 本作で一同に会する3人には、それぞれスーパーパワーがある。おさらいとなってしまうが、デヴィッドは破壊不可能な男、ケヴィンにはビーストと多重人格、イライジャには高い知能が備わっている。彼らは本作で、ビーストの誘拐犯罪を止めようとするデヴィッド、それに対抗するビースト、それを見守るイライジャという立ち位置になってくる。デヴィッドとケヴィンは戦闘中に警察に包囲され、イライジャの収容されている精神病院に連行されるのだ。

スーパーヒーローは存在するのか

 本作のキャッチコピーともなっている命題、それは「スーパーヒーローは存在するのか」ということ。3人が収容された精神病院にやってきたのは、エリー・ステイプル(サラ・ポールソン)という医師 。彼女の専門は「自分たちにスーパーパワーがあると思い込んでいる人」であり、真っ向からヒーローの存在を否定する。彼女は3日間、彼らに“自らの存在が特別ではない”ことを説き、それを理解させるというのだ。

 シリーズを通して描かれてきた、信じる気持ちによって得られたパワー。それが揺らいだ時、彼らは力を失ってしまうのか。そもそも彼らの持っていたパワーとは何なのか。

 そんな問いを彼らだけでなく、我々にも向けられているような作品となっている。

“失意の者”に対する救済、アメコミ映画に対するシャマランの解

 本作のテーマ性は、『アンブレイカブル』より『スプリット』のものに近い。それというのも、『ミスター・ガラス』は生まれてから痛みしか知らなかったイライジャ(ガラス)にスポットライトが当たる映画だからだ。

 『アンブレイカブル』では信じる者が描かれ、『スプリット』では救済するものが描かれた。痛みを知る者を描く本作は、ビーストがケイシーを救済したように、ミスター・ガラスを含む、多くの痛みを知る“失意の者”にとっての伝道師となろうとする。つまり、本作にはもうヴィランは登場しない。登場するのは、3人の全く違う英雄だというわけだ。

 また、シャマラン監督がMCUやDC映画がヒットする中で本作を打ち出したのも意味深いと感じる。実際、劇中に登場する新ビルについて取り上げた雑誌には「OSAKA TOWER TO TRUE MARVEL」という記載もあった。MARVELとはもともと「脅威」や「奇跡」という意味の言葉であり、もちろんこの言葉においてもそういった文脈で使用されている。しかし、どこかアメコミ映画を意識しているようにも捉えられる。

 もともとは「ヒーローとは何なのか」を描いてきたアメコミ映画シリーズ。しかし近年はダイナミックなアクション、キャラクターの能力描写が派手になっていくにつれ、そのメッセージ性というものは薄れてきているように感じる。「ヒーローとは何か」と考える前にその「かっこよさ」に目がいってしまうのだ(もちろん、中にはヒーローとヴィランについて深く考えさせられる作品もあるけれど)。

 そんな中、シャマランが世に出した『ミスター・ガラス』。それはヒーローの“オリジン・ストーリー”を描いたものであり、だからこそ非常に意味深い作品となっているのだ。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードハーフ。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆。
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■公開情報
『ミスター・ガラス』
全国公開中
出演:ブルース・ウィリス、サミュエル・L・ジャクソン、ジェームズ・マカヴォイ、アニャ・テイラー=ジョイ、スペンサー・トリート・クラーク、シャーレーン・ウッダード、サラ・ポールソン
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)Universal Pictures
公式サイト:Movies.co.jp/mr-glass

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