入江悠監督が語る、総決算となった『ギャングース』 「見過ごしていた“リアル”があった」

社会の“外部”を描く意図

ーーサイケたちは親の虐待を受け、自ら罪を犯し、少年院で出会った仲間です。彼らは家もなく、まともな仕事もなく、社会の底辺からなんとか抜け出そうともがきます。彼らが置かれた状況の切実さがヒリヒリとスクリーン越しに伝わってきました。

入江:原作でも、社会からドロップアウトせざるを得なかった子どもや、親からの虐待、少年院での生活などが細かく描かれています。同じ社会に生きていたはずなのに、自分が気づくことがなかった、見過ごしていたリアルがありました。でも、何かを読んで知っただけでは、映画として描くことはできません。実際にそういった境遇の中で生きる方たちはどんな空気をまとっているのか、どんな喋り方をするのか、どんな考えた方を持っているのか。貧困問題や虐待、裏社会で行われている闇の部分をいかに、エンターテインメントにも昇華できるのか。漫画の原案である『家のない少年たち』の著書・鈴木大介さんにもお話を聞き、脚本への意見もいただけたことは非常に大きかったです。実際に接した方々の“リアル”を作品に落とし込むことができたと思います。

ーー“リアル”に落とし込む上で、役者たちにはどんな演出を心がけたのでしょうか。

入江:いかに映像に映っていない部分でサイケ、カズキ、タケオの変化を表現できるか、それをどう見せるかを大事にしていました。彼らが一度喧嘩をしても、次のシーンでは仲直りをして、また新たな作業に取り掛かっている。ただ物事が動いているのではなく、同じ時間がその裏で流れているようにと。その点、3人が本当に現場で仲良くなり、信頼関係を築いてくれたことが非常に大きかったです。

ーー本作の中でも印象的シーンのひとつが、3人が河原で気持ちをぶつけ合うクライマックス前のシーンです。カズキ、タケオに比べてそれまでクールだったサイケが、自身の親についての本音を打ち明ける。「(親に対して)憎しみしかないのに、なんでこんなずっと考えてるんだろうな」というセリフにはグッとくるものがありました。

入江:彼ら3人が悪党を狙う窃盗団、いわゆる『ルパン3世』のようなチームに見えてしまったらちょっと違うだろうな、という思いがありました。親に捨てられ、少年院を出た彼らが擬似家族となってお金を稼ぐ、その背景にはどんな思いがあるのかをきちんと提示したかったんです。このシーンにいたるまで、回想シーンなどで見せてはいたんですが、もっと直接的に彼らが抱えている思いをぶつけてもいいんじゃないかと。昔は長台詞で、胸の内を説明するなんて恥ずかしいと思っていたんですが、ここは言うべきだと思ったんです。

ーーどんな心境の変化があったんですか。

入江:最後までためらいはありました。だからずっと脚本段階でも書いていなかったんです。でも、原作者の方々の思い、自分が取材してきた方々の話を振り返ったとき、“親”という存在がすごく大きいんだと。“親”が欠けてしまった人が、大人になってもずっと残り続けるものとは何か。どんなに強がっても、どんなに憎んでも、自身を産んだ親の存在は、絶対に変えることができません。それをサイケに言わせたかった。かなり賭けではあったのですが。

ーー入江監督作品の一貫したテーマとして、「今いるところから抜け出す」というものがあるように思います。サイケたちも、一歩外へ踏み出したラストシーンと言えるのでしょうか。

入江:そこは作品をご覧になった方にどう思っていただけるかですね。『ギャングース』が、今まで自分が描いてきたものと決定的に違うのは、社会の“外部”と思われていた人たちを主人公にしていることです。目を背けたくなるような現実も、それこそ映画や漫画の中の世界だと思っていたような人も、僕たちが暮らすこの社会に地続きに存在しています。そんな彼らと同じ社会で生きている意味を改めて問わないといけないと思います。マジョリティとされているものからさらにこぼれ落ちているもの、本当は近くにいるはずなのに気付かないようなこと、それがいっぱいあると本作の制作を通して気付きましたし、まだまだ知られていないんじゃないかと感じました。

(取材・文=石井達也)

■公開情報
『ギャングース』
全国公開中
出演:高杉真宙、加藤諒、渡辺大知(黒猫チェルシー)、林遣都、伊東蒼、山本舞香、芦那すみれ、勝矢、般若、菅原健、斉藤祥太、斉藤慶太、金子ノブアキ、篠田麻里子、MIYAVI監督:入江悠
脚本:入江悠、和田清人
原作:肥谷圭介・鈴木大介『ギャングース』(講談社『モーニング』KC所載)
製作・配給:キノフィルムズ/木下グループ
制作プロダクション:アミューズ+パイプライン
(c)2018「ギャングース」FILM PARTNERS (c)肥谷圭介・鈴木大介/講談社
公式サイト:gangoose-movie.jp 
公式Twitter:@MovieGangoose

関連記事