岡田将生が“善”と“悪”を見せる 『昭和元禄落語心中』で表現のすべてをぶつける圧巻の演技

岡田将生が見せる“善”と“悪”

 そんな岡田が、現在『昭和元禄落語心中』で演じているのが、落語の名人・有楽亭八雲。初回は白髪交じりの頭に、シワが刻まれた頬という晩年の姿から始まり、以降、八雲が青年時代を回想する形で話が進む。度肝を抜かれたのは、第2話で登場した若き日の菊比古(後の八雲)の美しさ。和装姿はうっとりするほど妖艶で、その岡田が拝めるだけでもドラマを観て損はないと思うほど。第4話に、菊比古に思いを寄せる芸者・みよ吉(大政絢)が「(落語は好きじゃないが)しゃべってる菊さんが綺麗だから見に行くの」と話すシーンがあるのだが、「でしょうね」と首を縦に振るばかりである。

 立ち姿や所作に、どこか品があるのも岡田の魅力だが、滲み出る上品さが見事に菊比古にハマっている。そして、友情、愛情、嫉妬、欲望など、とめどなく湧き上がる人間くさい感情を、冷静を装い自らなだめる菊比古は、とても艶っぽい。

 一方で、落語のらも知らずに、まずは落語を楽しむことから稽古を重ねたという岡田だが、意を決して臨んだしゃべりは、落語ファンからも称賛の声があがっている。また本作の落語指導を務め、第4話で木村家彦兵衛に扮した柳家喬太郎との稽古場面は、ドキュメンタリーかと錯覚を起こすほどリアリティにあふれ、岡田が落語と真摯に向き合ってきたことが伝わる名シーンだった。そして、菊比古がすべてを吹っ切り披露した「死神」は圧巻で、同時に役者・岡田将生としてもこの上ない輝きを放つのだった。

 物語は、ここから助六(山崎育三郎)とみよ吉の死の真相に迫っていくこととなり、シリアスな展開へと突入する。心から落語を楽しみ、みよ吉を愛した“善”の自身を封じ、地獄に落ちても落語と心中することを決め、ある種“悪”としての面が見え始めた菊比古を岡田がどう演じるのか。目を奪われる美貌と色気、ハイレベルな落語、10代~晩年までの演じ分けと、これまで培ってきた表現のすべてをぶつける『昭和元禄落語心中』は、間違いなく岡田の代表作となるはず。そして、回を追うごとに視聴者の中で高まる多様な期待にも、岡田はきっと応えてくれることだろう。

■nakamura omame
ライター。制作会社、WEBサイト編集部、専業主婦を経てフリーライターに。5歳・7歳の息子を持つ2児の母。ママ向け&エンタメサイトを中心に執筆中。Twitter

■放送情報
ドラマ10『昭和元禄落語心中』
NHK総合にて、毎週金曜22:00~放送
出演:岡田将生、竜星涼、成海璃子、大政絢、山崎育三郎
脚本:羽原大介
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama10/rakugo/index.html

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる