『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』公開記念企画

『エウレカセブン』劇場版3部作としてなぜ今リブート? 作品のテーマと革新性を評論家が徹底解説

“王道”を貫いた『エウレカセブン』は正しかった

『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』

ーー先ほどもありましたが、『エウレカセブン』の物語の核はボーイミーツガールであると。アンケートでも、やはりレントンとエウレカの恋を応援している人が多くいました。

さやわか:ボーイミーツガールはみんな好きですからね(笑)。『エウレカセブン』は最初からそれに挑戦しているところがよかった。2005年当時、真っ直ぐな話としてボーイミーツガールが描かれるのはとてもワクワクすることでしたし、事実、物語をドライブさせる役割も持っていました。劇場版でも、そのボーイミーツガールという背骨はいじらないで、その前提がある上で他のエピソードを散りばめています。TVシリーズからそうですが、大人と子供、人種間、人間と機械、政治の対立などを、それぞれすべて盛り込みながらも物語を成立させ、最終的には男の子と女の子が手を繋いで世界を救おうとする物語をやりきるのは、かなりの蛮勇ですよね。しかしレントンもエウレカも、物語の中で相当ひどい目にあってます。それはやはり“中間”という対立軸の中心に立っているからだし、そこから彼らは逃れることができない。でも、あえてそういう状況に置かせて乗り越えさせるのが本当にえらいなと思うんです。『エウレカセブン』は相反する人々が架け橋を持ってわかり合おうという話で、テクノミュージックとかレイブカルチャーというのも、簡単にいえば、人々が1カ所に集まって交わって混淆するとわかり合える、というのが根本にある考え方なので、やはりそこには作品のサブカルチャー的な思想を感じてしまいます。

『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』

ーー音楽が重要な要素となっていることにも必然性があるんですね。音楽との親和性について絶賛しているコメントも多かったです。

さやわか:そうですね。『エウレカセブン』はとてもコンセプチュアルなアニメなんですよ。よくアニメの中にテクノやヒップホップが入っていると、正直なんちゃって感があるというか、とってつけたような作品もある。でも、『エウレカセブン』は音楽カルチャーとアニメカルチャーと、描かれるストーリーの融合を不可分なものとしてやっているのがいいですよね。『ハイエボ1』に、チャールズ夫妻とレントンが踊るシーンが入っているのも必然です。『エウレカセブン』はそこに理由を持たせている感じがするんですよね。サマー・オブ・ラブというネーミングも、その音楽ムーブメントが持っているフィーリングや思想性を織り込んでいるし、ビームス夫妻のファーストネームが「レイ」と「チャールズ」というのも、すごく意味深。そういう意味づけをどんどん繰り返して、細部に至るまで敷き詰めると、作品全体をその思想性がカバーしてくれる。僕、TVシリーズの最終話の展開がすごく好きで、レントンが「なんだかよくわからないけど、いけるよ」って言って、電気グルーヴの「虹」が流れるんです。ここはもう、まったく理屈的ではないのですが、でも突き詰めていったところにあるテクノの高揚感ってそういうものじゃないですか。理詰めで作っていって、その理詰めをねじ伏せるような感情を起こせるに違いないというのが、エレクトロニカやテクノ、レイブカルチャーの根本にある。『エウレカセブン』もまさにロボットアニメとして、機械を使い、極度に情報化された世界の中で、人々がわかり合えることに希望を見よう、前に進もうとしている感じは、音楽のムーブメントと重なる部分があります。

ーー緻密に作られた世界の中に、“エモい瞬間”が立ち上がっていくという。

さやわか:そう、そこがいいですよね。緻密に作ると、90年代ぐらいのロボットアニメだと環境にがんじがらめにされて、物語がうまく進まなくなってしまいます。そうではなく、トラパーに乗るという、ある種の軽さもあって、がんじがらめの世界の中でどうやったら感動できるか。その勇気や男気みたいなものを『エウレカセブン』には感じますね。

『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』

ーーあらためて、『エウレカセブン』のアニメ史における位置づけとは?

さやわか:こういう絵柄とストーリーで、男の子と女の子が手を繋いで世界を平和に導く話って、今だと別に珍しくないかもしれません。でも、いろんなクリエイターが挑戦したかったのに、うまくできない時代があった。『エウレカセブン』は、それをやったんです。対立を描きながらボーイミーツガールをやるということを成し遂げた作品だと思います。アニメがこういう“普通の感動を普通に描く”ことをやるようになったのは、この2005年前後から顕著になっていきます。『電車男』の小説が出たのが2004年で、アキバ系ブームが来て、ある種オタクというものがとんがった形で捉えられた。『エウレカセブン』はその流れもあって注目されたはずですけど、でも、決定的に違ったのは、キッチュなものとしては作られなかったし、そういうふうにも受け入れられなかったこと。王道のストーリーであり、変なことはやらなかった。キッチュなものとしてオタクカルチャーが受け入れられているうちは、単なるブームであってカルチャーとしては根付いていない。作り手はそれをわかっていたから、一過性の作品にはしなかったんだと思います。だから十数年経った今も支持されている。あのころ、王道を貫いた『エウレカセブン』は正しかったし、その先に今の真っ直ぐさを持ったアニメカルチャーがあるのだと思います。

(取材・文=若田悠希)

■公開情報
『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』
11月10日(土)全国ロードショー
キャスト:小清水亜美、名塚佳織
監督:京田知己
脚本:佐藤大
キャラクターデザイン:吉田健一、藤田しげる、倉島亜由美
配給:ショウゲート
(c)2018 BONES/Project EUREKA MOVIE
公式サイト:http://eurekaseven.jp/

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