戸田恵梨香とムロツヨシが過酷な現実に直面していく 『大恋愛』表裏一体の喜びと悲しみ

 だが、現実は厳しい。尚は物理的に鍵を玄関にさしたまま忘れてしまう。その光景が、いつか真司がかけた鍵をも、尚が忘れてしまいかねない不安な未来を予感させる。その現実を憂いたり、ましてや尚を責めても意味がない、と真司は努めて明るく振る舞うのだった。尚の手を取り、自分のホクロを押させて変顔をして笑わせる真司。手のひらからサラサラとこぼれる尚の記憶が、笑顔が、希望が、すべて落ちて絶望してしまう前に、こぼれた分だけ新たな楽しい思い出を。そんなふうに支える真司がいじらしい。

 尚が望む全てを叶えて上げたいという想いで、カビ臭いと言われたトイレもお風呂も台所もキレイに磨き上げ、ドヤ顔で迎える真司に、尚は屈託なく「ピッカピカ〜!」と大喜び。今できることを、と取り組んだ真司だったが「でも、せまーい!」と笑う尚に、尚の生活レベル、その手の中にある幸せは、真司のそれとはレベルが違うことを痛感。さらに、元婚約者の侑市(松岡昌宏)と対峙したことから、さらにそのコンプレックスは刺激される。尚の手からこぼれ落ちるものに相当するものを注ぎ込むには……とアルバイトのシフトを増やし、激務を続けるも真司のほうが体を壊してしまうのだった。

 尚がこれから失うであろう知識や思い出は、きっと真司がどんなに頑張っても補填することなんでできないのだ。「好きや嫌いが選べない」のと同じように、どんな記憶から失っていくのかを尚自身が選べないのだから。だが、私たちはどこかでアルバイトのシフトを増やすことを選択したように、自分自身の人生を選べているような感覚に陥ってしまう。何かを求めたから好きになったのでは? 忘れたい記憶だったから忘れたのでは? ……と。しかし実際は、理由や理屈では説明がつかないような展開で人生は大きく動くものなのだ。

 第3話は、尚が真司に抱きつきながら「侑市さん」と名前を間違えてしまうショッキングなシーンで幕を閉じた。呆然とする真司の顔を、尚は見えていない。尚はきっと過去の記憶を失うだけではなく、真司を傷つけてしまう新たな記憶とも向き合っていかなければならない。“壊れる前に殺してほしい“と、侑市に訴えた切ないシーンがよぎる。「好きと嫌いは選べない」のと同様、生と死も選べない。自分の力ではどうにもできない大きな運命の流れを前に、尚と真司がどう生き抜くのか。その姿はきっと病はもちろん様々な過酷な現実に直面している人に寄り添うことになるだろう。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54
脚本:大石静
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
出演:戸田恵梨香、ムロツヨシ、富澤たけし(サンドウィッチマン)、杉野遥亮、小篠恵奈、黒川智花、橋爪淳、夏樹陽子、草刈民代、松岡昌宏
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
公式Twitter:@dairenai_tbs

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