新垣結衣と黒木華の姿は他人事ではない 『獣になれない私たち』タイトルに込められたもの

 第1話を観て「そんなブラック企業なら、逃げてしまえばいいのに」と思った人もいたことだろう。その客観的に見て、この行動は自分にとっての正解ではないと知ること。疑似体験で自分の中の感覚を養うことこそ、ドラマの存在意義だ。きっと、晶は当事者故に、その感覚が鈍っているのだろう。努力がなかなか報われない派遣社員を経て、やっとなれた正社員。しかも、その会社はお世話になった人の紹介先。短期間で辞めてしまったら、次はない。恩人の顔に泥を塗ることになる……。そんなしがらみが心の音を聞く余裕を失くしていく。

 もちろん社会のしがらみは、時としてセーフティーネットにもなりうる。私たちの社会は「もう走れない」と、群れから逃げ出したとしても、野生動物のようにすぐ天敵に食い殺されることはない。再生する方法もある。だが、その情報はすべての人に行き渡っていない。こんなにもネットが生活に浸透しても、まだなお情報格差はあり、それゆえに一度立ち止まったら群れに戻るのが難しいという課題も拭い去れずにいる。肉体的には生き続けられても、精神的に生きる力が弱ったまま、立ち上がり方を忘れてしまう人が少なくないのだ。

 京谷の朱里(黒木華)も、本当は走り続けたかったはずだ。だが、気づいたら社会の群れからは遠く離れ、京谷もそんな自分に魅力を感じてくれなくなった。どこで足を踏み外したのか……。そのエアポケットは、誰にとっても他人事ではない。

 だから、ときには自分の心で鳴る音に耳を澄まそう。野生で生きる、獣のように。多くのノイズが飛び交うこの社会で、自分の人生を命を守るために。どの音が警鐘で、どの音が福音なのか。もしかしたら、すぐには聞こえないかもしれない。聖アンデレ教会のように、世知辛い世の中に、かき消されてしまっている可能性もある。

 感覚を研ぎ澄ましていると、聞こえてくるのは10月20日にオンエアされるドラマ『フェイクニュース』(NHK総合)のオープニング……なんて。『フェイクニュース』こそ、脚本家・野木亜紀子が鳴らす、ストレートな現代社会への警告音だ。このドラマも、きっと今を生きる私たちに、何か大きなヒントを与えてくれるのではないか。そんな予感の音が、頭の中で鳴り響いている。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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