二宮和也、『検察側の罪人』で感情を爆発 『ブラックペアン』に重なる迫力の演技に注目

 二宮演じる沖野は、「最上流正義の継承者」と自称するほどに研修担当検事であった最
上に憧れを抱いていた。もちろん沖野自身も優秀なのだが、最上のやり方や最上からの期
待に応えようと奮闘していく様子が印象的である。故に、「最上の正義感はおかしい」と
疑問を抱いても、はじめはその疑問をぶつけることができないでいた。しかし、徐々に最
上に疑問を抱いていく様になる。

 物語の後半、最上の正義に確固たる疑問を持った沖野はかつて崇拝していた最上に対しても毅然とした態度を取るようになっていく。その表情は物語の前半と全く違う。「あなたの正義は間違っている、自分は自分の正義を貫く」と宣言しているような、挑戦的な目だ。この微妙な心情の変化の表現の仕方は、絶妙であると言える。大げさでもなく、分かりづらくもなく、ちょうどいい塩梅なのだ。

 また物語の序盤、クセのある被疑者を取り調べるシーン。沖野は相手にナメられないように必死に機転を利かせ、取り調べを進めていく。ここまでは、これまでよく目にしていた二宮の演技だ。しかし物語の中盤、老夫婦殺人事件の被疑者の1人であり、過去未解決殺人事件の重要参考人であった松倉重生(酒向)を取り調べるシーンでは、一気に感情を爆発させ、松倉に詰め寄る。早口かつ長台詞なのだが、完全に自分の言葉として喋っているかのようでかなり迫力がある。かと思えば、自殺した松倉の兄の写真を目の前に出し、「お前が兄貴を殺した」と耳元で囁くように冷淡に言い捨てる。この緩急が素晴らしい。123分の映画の中での沖野の心情の変化を的確になぞらえ、感情をこれでもかと表現してくる。

 『検察側の罪人』における二宮の演技の素晴らしいところは、キャラクターの縁取りが
秀逸なことだ。戸惑い、憧憬、向上心、正義感、反抗心…、沖野啓一郎という人物が持つ
様々な感情をあの手この手で表現している。スクリーンに映し出される、二宮渾身の演技
を是非堪能しながら作品を楽しんでみてほしい。

(文=高橋梓)

■公開情報
『検察側の罪人』
全国東宝系にて公開中
監督・脚本:原田眞人
原作:『検察側の罪人』雫井脩介(文春文庫刊)
出演:木村拓哉、二宮和也、吉高由里子、平岳大、大倉孝二、八嶋智人、音尾琢真、大場泰正、谷田歩、酒向芳、矢島健一、キムラ緑子、芦名星、山崎紘菜、松重豊、山崎努
製作・配給:東宝
(c)2018 TOHO/JStorm
公式サイト:http://kensatsugawa-movie.jp

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