これほど真摯な作品はない 低予算ホラー『ゲヘナ~死の生ける場所~』に込められた努力と気合

 そして、早々にオチが割れてしまうほど、分かりやすいストーリーも真面目さの一部だ。なぜなら“オチが割れる”ように作られているからだ。例えば、痩せこけた老人がある男に向かって言う台詞は「お前が最初に死ね」である。「お前が最初に死ぬ」ではない。つまり「最初に死ななければならない」理由があることが伏線として、とても分かりやすい形で明示されるのだ。こうした解りやすい伏線は、ヘタすれば先読み可能な退屈なものになりかねない。しかし、本作ではこのような解りやすい伏線が畳みかけるように張られていく。この所謂フラグ立ての応酬は、主人公たちが最悪の結末に向けて疾走していくようで、何とも言えない爽快さがあるのだ。

 この映画は、何故こんなにもひたむきで真面目なのか? 監督の片桐裕司氏の情念が込められているからだ。『ゲヘナ』の製作は前途多難であったという。Kickstarterでコケ、脚本でつまずき、資金繰りで悲鳴を上げながら10年以上の歳月をかけて仕上げたのだ。詳しくは監督のブログに記載されているが、その根性たるや凄まじいものがある。片桐監督は、特殊効果・造形アーティストとしてはすでに大成していたものの、『ゲヘナ』製作開始当初は、映画製作についてはほぼ素人だった。

 だから脚本は基本に忠実(つまり真面目に)に書いたことが見てとれるし、サイパンの撮影も、アメリカ本国ではコストが掛かるロケ費用を浮かすためであろう。金や経験が無いなら努力と気合いしか無いだろ!と言うわけだ。本作では、その努力と気合が見事に効果を上げている。これはインディーズ映画の魔法なのだ。今回、1週間の限定公開ではあるが、このような作品が日本の劇場で上映されるのは非常に喜ばしいことだ。是非、渋谷ユーロライブに足を運んで欲しい。

■ナマニク
ライター。ZINE『残酷ホラー映画批評誌 Filthy』発行人。『映画秘宝』にて「ナマニクの残酷未公開 Horror Anthology」連載中。単著に『映画と残酷』(洋泉社)がある。2011年シッチェス映画祭に出展された某スペイン映画にヒッソリと出演している。

■公開情報
『ゲヘナ~死の生ける場所~』
7月30日(月)より渋谷ユーロライブにて公開
監督・脚本:片桐裕司
出演:エヴァ・スワン、ジャスティン・ゴードン、サイモン・フィリプス、ショーン・スプローリング、マシュー・エドワード・ヘグストロム/ダグ・ジョーンズ/ランス・ヘンリクセン
配給:ファイブツールデザイン
原題:『Gehenna: Where Death Lives』
製作:2016年/アメリカ
(c)Hunter Killer Studio
チケット販売情報:チケットぴあ(https://t.pia.jp/)、映画公式サイト(http://gehennafilm.jp)にて販売中

関連記事