松本穂香主演『この世界の片隅に』が目指すのは“夜の朝ドラ”? オリジナル要素は原作の延長線上に

 だが、脚本を担当するのが連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ひよっこ』(NHK)を手がけた岡田惠和だと知った時は、その手があったかと思った。そしてプロデューサーは佐野亜裕美、チーフ演出が土井裕泰という昨年SNSで話題となった連続ドラマ『カルテット』(TBS系)を手がけたチームだと知って、この座組ならば、漫画ともアニメとも違う、連ドラならではの『この世界の片隅に』が生まれるのではないかと期待が広がった。

 そんな気持ちで試写を観た。思ったよりも、オリジナル要素が多いことに驚いたが、それが原作の延長線上にあるものとなっていて、うまく世界観を広げている。同時に同じ場面を描いていても、漫画ともアニメとも違う解釈になっている場面があったのも面白かった。

 まだ放送前なので、詳細は書かないが、すでに公表されている一番大きな情報としては、榮倉奈々と古舘佑太郎が演じるカップルが登場する現代パートがあることだろう。今後、この現代パートについては賛否が出るかもしれないが、個人的には、こうの史代の『夕凪の街 桜の国』や、岡田惠和が2011年に手がけた朝ドラ『おひさま』(NHK)を思い出した。おそらく現代パートを入れることで、戦時中の物語を過去のものとしてではなく、今の時代を生きる私たちの現実と地続きだということを表現したいのだろう。最終的にドラマ版の評価は、この現代パートをどのように描くのかに関わってくるのではないかと思う。

 試写終了後、佐野亜裕美プロデューサーによる質疑応答の時間があった。脚本に岡田惠和を起用した理由について伺うと、『この世界の片隅に』の盛り上がる場面をズラして見せていくテイストが、岡田さんの作風と似ていると感じたことと、作品自体が朝ドラに近いので「朝ドラをたくさん書いている岡田さんにお願いした」と答えてくれた。そして本作に対しては、TBSで作る「夜の朝ドラ」のような作品になればいいと語っていた。アニメ版『この世界の片隅に』が朝ドラの『あまちゃん』で主演を務めたのんがすずの声を担当していたことを考えると、面白い巡り合わせである。

 そして、本作では岡田惠和脚本の朝ドラ『ひよっこ』に出演し、青天目澄子役で鮮烈な印象を残した松本穂香が、主人公のすずを演じている。澄子も、本作のすずと同様、ゆっくりと喋るどんくさいキャラだったが、松本の演技は見事にハマっていて、登場してすぐに「ここにすずさんがいる」と思った。ドラマ自体の最終的な評価は終わってみないとわからないが、彼女の起用に関しては文句なしのキャスティングだ。

 平成最後の夏となる2018年に、本作が放送される意味を噛み締めながら、最後まで見守りたいと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
日曜劇場『この世界の片隅に』
TBS系にて、7月15日(日)スタート 毎週日曜21:00~21:54放送
原作:こうの史代『この世界の片隅に』(双葉社刊、『漫画アクション』連載)
脚本:岡田惠和
音楽:久石譲
演出:土井裕泰ほか
プロデュース:佐野亜裕美
出演:松本穂香、松坂桃李、村上虹郎、伊藤沙莉、土村芳、ドロンズ石本、久保田紗友、新井美羽、稲垣来泉、二階堂ふみ、榮倉奈々、古舘祐太郎、尾野真千子、木野花、塩見三省、田口トモロヲ、仙道敦子、伊藤蘭、宮本信子
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/konoseka_tbs/

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