石原さとみ、『アンナチュラル』と対照的な役に 『高嶺の花』が描く“おいしい”と感じる喜び

『高嶺の花』が描く食事の喜び

 生きるために食べる。石原さとみが主演を務めたドラマ『アンナチュラル』(TBS系)は、死を通して生きることの尊さを描いたドラマで、人間の三大欲求のうちの1つである“食欲“を満たすシーンがたくさん出てきた。

 そして7月11日にスタートした石原主演のドラマ『高嶺の花』(日本テレビ)でも、食事シーンが主人公・月島もも(石原)の心情を表すものとして用いられる。

 華道の名門「月島流」本家に生まれた令嬢であるももは、結婚当日に恋人の浮気により婚約破棄され、精神不安に陥っていた。心優しき妹のなな(芳根京子)は、寝てばかりのももを気がかりに思い、朝ごはんを差し出すも、パンをかじるももの表情は浮かないまま。

 のちに、ももはレストランでななに、婚約破棄のショックにより、自律神経が乱れてしまい、味や匂いがわからなくなったと打ち明ける。食欲・性欲・睡眠欲の三大欲求の低下は心が疲れている証拠。偶然か『アンナチュラル』の第1話でも石原演じる三澄ミコトは恋人に振られていたが、ミコトは淡々と口に食べ物を放り込んでいた。

 この対象的な姿から思うのは、ももが弱いのではなくミコトがあまりにも強かったということだ。ももは、ななをはじめとした家族や、風間直人(峯田和伸)らの商店街の人たちと話すとき、早口でぶっきらぼうな口調になる。それは溢れてしまいそうな悲しみを隠すゆえの、強がりの現れなのだろう。家柄や才能が完璧で生きてきた人間にとって、婚約破棄は屈辱以外のなにものでもない。「人の目なんてどうでもいい」と父・市松(小日向文世)に言っていたものの、やはり彼女は他者に弱さを見せられず、荒れ狂う心のストッパーの役割を人の目が果たしていた。

 実際ももは、1人になってしまうと暴走気味になる。元恋人・吉池(三浦貴大)にストーカーまがいの行為をし、家族に迎えに来てもらうというのは衝撃的な幕開けだった。また、直人の自転車屋でジャージに着替える際、鈴の音とセミの声をバックに、パニックに陥っている姿が見受けられたが、その石原の表情には恐怖を覚えるほど。

 だからこそ、直人が作った味噌汁の香りと味を楽しむももの表情は非常に温かく感じられる。無機質な白い部屋で食べたトーストではなく、地べたに座ってちゃぶ台で食べる普遍的な朝ごはんが、ももの日常を取り戻していく。もちろん、その前日にスナックで語った“喜怒哀楽”の話がももの心を動かしたわけだが、第1話は言葉のないシーンがストーリーに彩りを与えていったように感じる。

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