立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第29回

公開本数の激増は映画館にとって福音か? デジタル上映の長短を考える

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第29回は“公開本数の激増は映画館にとって福音か?”というテーマで。

 ここ数年、まあまあ映画観ている友だちと話しても、同じ作品を観ている確率が下がってません? それも公開規模の小さい作品というだけでなく、かなり広く宣伝されているものとか、大ヒットシリーズの続編とか、そういうクラスの作品でもです。それは、気のせいなんかじゃありません。

 2011年頃から、映画の年間公開本数が激増しています。2017年に洋邦併せて公開された本数は1,187本。仮にあなたが相当の映画オタで、年に100本観たとしても、全体の10%も観られていない、ということになります。人付き合いというものを一切断ち、人生のすべてを映画鑑賞に捧げる映画求道者になっても年600本観るのは至難の荒行ですが、それでもやっと半分観たに過ぎません。

 しかもこの総数には過去作のリバイバル上映や、ライブビューイングや生の舞台やなんかを収録したもの(ODSと呼ばれています。Other Digital Stuff)は含まれていません。つまり、とにかく映画館で上映されたもの、という括りにすればさらに100本くらいは増える可能性があるわけです。いやはや。

 一般社団法人日本映画製作者連盟のサイトで発表されている「日本映画産業統計」→「過去データ」をご覧ください。ここでは1955年からの公開本数やスクリーン数、平均客単価なんかが見られます。

一般社団法人日本映画製作者連盟サイト

 このデータによると、先述の通り、公開本数の激増が始まったのは2011年頃で、この統計データを取り始めた約50年間は、多少のブレはあるものの、おおよそ550本~700本の間で推移してきたのです。

 いったい2011年に何があったのか? これの答えはシンプルです。この年、映画館での上映形態がほぼ完全に35mmフィルムからDCP、つまりデジタル上映に切り替わったのです。2012年にスクリーン数が少し減っているでしょう? これはデジタル上映のための設備投資ができなかった劇場がやむなく閉館したという理由が大きいのです。東日本大震災を経て建物の耐震基準の見直しが行われた、というもう一つの理由もありますが。

 現在映画館には、ハードディスクで映画のデータが送られてきます。35mmフィルムと違ってずいぶんコンパクトになり、当然現像の手間もないので、制作費も、上映媒体の送料なども大きくコストダウンもできたわけです。それが製作本数の増加の一番の理由ですね。コスト面において、映画を作るハードル、映画を配給するハードルが下がったことは、それをやりたいと思う人にとってはチャンスが増えて喜ばしいことでしょう。

 スクリーン数がシネコン化のために増加したのも大きいです。加えて1スクリーンで1作品を上映する、というのではなく、大抵どこでもスクリーン数の1.5倍~2倍の作品数を上映するようになりました。タマゴが先か、ニワトリが先か、みたいなところもありますが。

 これ、映画館としては、ありがたい側面もあるんですよ。情報の消費スピードがとてつもなく加速している時代に合わせ、次から次に新作を放って、上映期間を短くすれば座席稼働率は上がります。日に300名集められる見込みの作品を5回上映するより、日に70名は集められる作品を5本上映したほうが映画館は稼げるわけです。また製作側も、制作費の大きな1本に賭けるよりも、複数本に分割したほうがリスクが低いでしょう。

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