中谷美紀の“家”、木村多江の“思い出” 『あなたには帰る家がある』別れに辿り着いた2人の先は?

 『あなたには帰る家がある』(TBS系)がますます見逃せない展開になっている。「夫婦のあるあるネタ満載の共感ストーリー」という最初の触れ込みがもたらすイメージをいい意味で裏切った、ホームドラマであり大人のためのラブストーリーであり、ホラーでさえある、実に上質なドラマだ。

 綾子を演じる木村多江は「純粋」という名の狂気をどこまでも体現し、茄子田家と佐藤家の両家を脅かす。対する夫・太郎役であるユースケ・サンタマリアは、その「モラハラ男」怪演の裏に、妻への不器用なりの確かな愛と、拒まれる男の悲哀と葛藤をたっぷりと滲ませる。また、“カピバラ”とも揶揄される、のん気で鈍感な浮気夫・秀明を演じる玉木宏の中途半端な優しさと情けなさはどこまでも加速し、そして誰もが応援せずにはいられない、現代社会を生きる等身大の女性・真弓を演じている中谷美紀の明るさとたくましさ、さらにはどうにも耐え切れずにこぼれ出る涙の儚さと美しさは、毎度息を呑むものがある。この4人の優れた俳優たちの鬼気迫るやりとりは一見の価値がある。

 女たちにはそれぞれ執着する何かがある。真弓にとっては「家」だ。第6話で綾子が真弓の家に乗り込んできたとき、「そういうことは外でやれ、人の家乗り込んで何夢みたいなこと言ってんの」と真弓は叫ぶ。その後、太郎が秀明に詰め寄り、殴りかかったとき、カメラは殴られている秀明よりも、彼らがよろめいた先で壊していく食卓、ブラインドカーテン、額縁、佐藤家の歴史がたっぷり詰まった写真立てを映すとともに、その家具が壊されるたびに凍りつき、最後には崩れ落ちるように座り込んでしまう真弓の表情もまた映していた。

 ただ黙って殴られればここまで家が壊されることもなかったというのに、怯えて逃げ回ったために余計に家中を破壊することになった夫の情けなさと真弓の彼への失望も増長する。真弓が自分の思いを押し込めてでも守ろうとした娘・麗奈(桜田ひより)も深く傷つき、「家に奥さんが足を踏み入れたとき、何かが壊れた気がして」のナレーションの通り、彼女はこれ以上何かを修繕しようとすることもできずに愕然とするのである。

 思えば、このドラマの冒頭、秀明が最初に手に取った映画のDVDは森田芳光監督の『家族ゲーム』であった。この映画もまた、家庭の崩壊を示したものである。当時の現代的な、綻びのある、極一般的な家庭に乗り込んできた松田優作演じる家庭教師が彼らを殴り、食卓をめちゃくちゃにして去っていく、かの有名な不穏な場面は、第6話の綾子と太郎による佐藤家の破壊を予告する何かであるように思う。

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