松江哲明が語る『ドキュメンタル』の革新性 「この番組には“笑い”しかない」

クリエイターとしての松本人志

 正直、『ドキュメンタル』で行われる過剰なパフォーマンスに、引いてしまう方も一定数いると思います。でも、そういった過剰さをカットするようなことがあれば、作品としての面白さは一気に損なわれてしまうでしょう。なぜなら、出演者たちの過剰な行動も、突飛なものではなくて、流れの中で必然的に起きたものだからです。ダレてしまったところ、やりすぎなところもしっかりと見せる、なぜこういう状況になっているかが視聴者もわかるから、その時間でも観ていられるんです。これはテレビでは絶対にできない、まさに配信だからこそ可能な手法だと思います。この番組には“笑い”しかありません。僕は今のテレビはニュースもドラマもバラエティの要素が入るようになり、すべてが画一化されたものになっている気がします。『ドキュメンタル』はそういったものとは対極の作りを行った非常にシンプルな番組です。言葉では簡単なのですが、これを実践できているのも松本人志さんのプロデュース力が大きいのだと思います。

「笑いを我慢する」というテーマ自体は、毎年恒例となっている大晦日の『笑ってはいけない』シリーズ(日本テレビ系)と共通しています。でも、『笑ってはいけない』と『ドキュメンタル』の最大の違いは、プレイヤーとしての松本さんではなく、クリエイターとしての松本さんの色が大きく見えるところにあると思っています。

 現在、地上波のバラエティ番組で独自の色がついている『水曜日のダウンタウン』(TBS系)や『アメトーク!』(テレビ朝日系)、『ゴッドタン』(テレビ東京系)などは、どれも名物ディレクターの色が垣間見えます。『ドキュメンタル』にはそういったディレクターの姿がいい意味で見えない。演出家・松本人志のもとでやってやるという覚悟が見える。松本さんを中心とした作り手たちの本気が、視聴者を魅了している要因になっていると思います。

 それにしても、まだ2年も経っていないのにもうシーズン5。いち視聴者としてはうれしい限りですが、こんなに早いサイクルで製作されていて負担が大きくないのかと心配になってしまいます(笑)。破壊と再構築を繰り返しながら、これからも進化を遂げ続ける『ドキュメンタル』を観ていきたいです。

(構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作は山下敦弘と共同監督を務めた『映画 山田孝之3D』。

■配信情報
『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン5
4月20日(金)よりAmazon Prime Videoにて見放題独占配信
毎週金曜日1話更新で全5話
出演:千原ジュニア、陣内智則、ケンドーコバヤシ、ロバート秋山竜次、ジミー大西、たむらけんじ、サバンナ高橋茂雄、かまいたち山内健司、狩野英孝、ハリウッドザコシショウ
(c)2018 YD Creation
公式サイト:https://www.amazon.co.jp/documental/ref=dvm_jp_pv_pm_hmdlp_001

関連記事