『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』から考える、アメリカ娯楽映画の状況と展望
異世界に旅立ち試練を乗り越えることで、それぞれが自己の問題を克服し大事なものを手に入れるというのは、アメリカの児童文学を代表する『オズの魔法使い』でも描かれ、ファンタジー要素を持ち込んで成長を描くという物語のひとつのかたちとして、多くの映画に影響を与え定番の設定になっているといえる。同時に、ティーン版の『インディ・ジョーンズ』といえる冒険映画『グーニーズ』(1985年)や、居残りクラスで普段対話をしない学生たちがふれあい成長を成し遂げる『ブレックファスト・クラブ』(1986年)などの要素を本作は持っている。
そこで注目すべきは、本作が「80年代」の空気を積極的にとり入れているという部分であろう。80年代にヒットした、ガンズ・アンド・ローゼズの「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」が劇中曲のみならずタイトルにも使われていることから、この試みはかなり意図的だ。それは、本作の作り手が参照する、95年の『ジュマンジ』という作品自体が、じつは80年代的な感覚で作られたものだったからであろう。
90年代といえば、クエンティン・タランティーノ、リチャード・リンクレイター、ケヴィン・スミスなど、インディーズの映画監督が台頭してきた時代であり、青春映画『リアリティ・バイツ』(1994年)が、当時の若者世代の空気を切り取った映画として、一つの象徴となっていた。本作では、『ジュマンジ』の記憶を喚起させるために、『リアリティ・バイツ』の劇中曲「Baby, I Love Your Way」(本作ではビッグ・マウンテンによる90年代のカバー曲を使用)を持ち出しているが、その頃には『ジュマンジ』のような作品は、すでに前時代的なものだとされていたのだ。
80年代のアメリカ映画は、政治的に保守的な空気の中で、表層的な享楽を追うポップな作品が多く作られ、娯楽として定着していた。社会問題や自意識の問題を個人的な視点から描く90年代的といえるテーマは、そんなポップへの反動であったといえる。本作が作り出すのは、いまではすでに「ヴィンテージ」となった80年代ポップが象徴したイメージである。それは、同じく80年代の時代を郷愁とともに再現した『ストレンジャー・シングス』や、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』、『スパイダーマン:ホームカミング』のような、より直接的なイメージを投影した作品とも共通する。
では、なぜそういったイメージを持った作品が支持されるのか。それは、社会的な視点が強く反映され、洗練され複雑化する映画作品が増えたことへのさらなる反動でもあるだろう。本作の持つシンプルな表層性は、それが理解しやすいからこそ、世代を超えて楽しめるものなのだ。
しかし、80年代のイメージを掘り出すことで娯楽映画を成立させるという手法は、裏を返せば自分たちの世代の“オリジナル”が生み出せていないということでもある。観客が求めているものは、けして「80年代的なるもの」に限定されているというわけではないだろう。それが面白いと感じるから惹きつけられているに過ぎないはずだ。とはいえ、80年代に現在の観客の求める「何か」があることは確かだ。その核となるものを発見し抽出することができるなら、「80年代」という重りを取り去って、娯楽映画はもっと新しく、幅を持ったものになっていくのではないだろうか。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督:ジェイク・カスダン
出演:ドウェイン・ジョンソン、ジャック・ブラック、ケヴィン・ハート、カレン・ギラン、ニック・ジョナス、ボビー・カナヴェイル
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.jumanji.jp/