松江哲明の“いま語りたい”一本 第26回

松江哲明の『マンハント』評:『HiGH&LOW』に通じる、観客が“補完”する魅力

 その意味で、『マンハント』は時代錯誤と言ってもいいかもしれません。でも、後ろを振り返らず、設定の細かさに気を取られず、とにかく前へ前へと進んでいく。文字通り、“停滞”が本作にはありません。DVDに加え、配信サービスが定着した今の時代、見たい場面をすぐに見つけられる“スキップ”が当たり前の機能として付いていますが、そんな操作を許さないような、アクションが最初から最後まで続いていきます。映像が凄いという意味だけでなく、そこにテーマが含まされているのがジョン・ウーならではです。

 監督のアクションには一つひとつに意味が込められているんです。お決まりとなっている白い鳩も、男と男の感情が交錯する際や、戦いの最中、または始まるというときに飛び立ちます。手錠をした男同士が一つの銃を支え合いながら撃つというのも、単なるポーズではないです。そのルールが分かれば分かるほど面白くなるのがジョン・ウー作品です。その意味では、アクションが得意な監督というよりも、胸のうちにあるエモーショナルなものをひたすら描きたい監督なんだと思います。『フェイス・オフ』が分かりやすいのですが、ドラマのシーンもアクションと同じように演出されています。派手な銃撃戦にあえて「オーバー・ザ・レインボー」を流すシーンは自信の表れだったと思います。同じ香港映画で言えばジャッキー・チェンのようにワンショットで技術を見せるよりも、カットとカットの積み重ねで感情を伝えてくれます。そういう意味では”編集”の監督だと思います。

 今回、脚本クレジットには7人もの人物が名を連ねています。面白くしようといろいろな案を加えていった結果、まとまりがなくなってしまった印象は受けるのですが、そんな脚本を無理やり成立させているところにも、かつての香港映画の一端を見た気がします。昨年公開された『HiGH&LOW THE MOVIE2 / END OF SKY』で感じたことなのですが、キャラクター一人ひとりの面白さ、アクションの豊かさが物語の粗さを凌駕し、むしろ足りない部分を観客が補完することで熱狂を生み出していました。キャラクターのこんなところが見たい、こんな物語があってほしい、と思わずにはいられないそんな魅力。『マンハント』もまた、『HiGH&LOW』に通じる魅力があると思っています。それこそ、両作ともどこか『少年ジャンプ』の漫画のような展開なんですよね(笑)。『HiGH&LOW』がそうだったように、本作も応援上映が絶対に似合うはずです。

 僕は福山雅治さんがエンターテイメント作品に出る一方で『そして父になる』、『SCOOP!』、『三度目の殺人』と、作家性の高い映画に出演されているところが好きですね。そして初海外作品がジョン・ウーというところに、福山さんのアンテナの張り方の面白さを感じます。大根監督とも『モテキ』的なものをやるのではなく、原田眞人監督『盗写 1/250秒 OUT OF FOCUS』のリメイクを選ぶ。単純に“売れる物”ではなく、映画として残るもの、自分のやりたい物をしっかりと選び取って仕事をされている印象です。または自分が参加することで監督のやりたいことを後押しすような。福山さんをはじめ、國村隼さんや、斎藤工さん、竹中直人さん、矢島健一さんらが楽しんで演技をしているのが伝わってきます。ジョン・ウー映画をリアルタイムで観ていたキャスト・スタッフが、“この人のために”と仕事をしている感じ。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』もそうでしたが、一世を風靡した作品を作った監督が、新たなキャスト・スタッフとともに“いま”の映画を作る、その作品を観ることができるのはうれしいことですね。

(構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作は山下敦弘と共同監督を務めた『映画 山田孝之3D』。

■公開情報
『マンハント』
TOHOシネマズ 新宿ほかにて公開中
主演:チャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン
友情出演:國村隼
特別出演:竹中直人、倉田保昭、斎藤工
共演:アンジェルス・ウー、桜庭ななみ、池内博之、TAO、トクナガクニハル、矢島健一、田中圭、ジョーナカムラ、吉沢悠
監督:ジョン・ウー
撮影監督:石坂拓郎
美術監督:種田陽平
音楽:岩代太郎
アクション振付:園村健介
衣装デザイン:小川久美子
原作 西村寿行『君よ憤怒の河を渉れ』/徳間書店刊 および 株式会社KADOKAWAの同名映画
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公式サイト:http://gaga.ne.jp/manhunt/

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