バクシーシ山下 × さやわか『アイドルキャノンボール』対談 「腹黒い気持ちで女の子と接していた」
AV監督のカンパニー松尾による最新作『劇場版アイドルキャノンボール2017』が、現在公開中だ。同作は、カンパニー松尾の代表作である『テレクラキャノンボール』シリーズの設定・手法を取り入れたドキュメンタリー。BiSの所属事務所WACKが開催したオーディション合宿に、AV監督たちがカメラを持って参加し、アイドルグループのメンバーやオーディション参加者などに、どこまで迫れるかをポイント制で競い合う。
リアルサウンド映画部では、参戦者のひとりであるAV監督のバクシーシ山下氏とライター・物語評論家のさやわか氏の対談を行った。5泊6日の過酷な合宿の中で、バクシーシ山下氏は何を思い、額に汗して踊り続けるアイドルたちにカメラを向けていたのか? 監督同士による狡猾な頭脳戦の裏側、被写体の心理を巧みに操る戦略、そしてWACK代表・渡辺淳之介氏の奇特なパーソナリティーについてまで、さやわか氏が舌鋒鋭く切り込んだ。
さやわか「“男子の部活感”が出ていた」
さやわか:今回の映画『劇場版 アイドルキャノンボール2017』は、最後の最後までどんでん返しがあってすごく面白かったです。やっぱりレース方式だと、みんな勝ちに行きたくなるんですかね? 参加者の方々の気持ちがどんどん研ぎ澄まされていくのを感じました。エリザベス宮地さんなんて、最後には悔し涙さえ流していて。
バクシーシ山下(以下、山下):まあ、僕は横で見ていて「泣くほどのことかな?」って思いましたけれどね(笑)。そもそもアイドルがどんな存在なのか、僕がよくわかっていないからかもしれないけれど。それはカンパニー松尾さんとかも同じだと思います。基本的には、女の子がいて、僕らは仕事としてミッション通りにエロいことを仕掛けようと頑張る感じ。とはいえ、途中でアイドルの子たちの本気ぶりを見て、自分たちの小ささに気付かされたりはしますけれど。「俺たちはいったい何をやっているんだ?」って(笑)。
さやわか:男たちのしょうもなさが映し出されている映画でもありますよね。そこがむしろ、同性としては共感できて、後半はほとんど男たちが会議室でああだこうだ言っている場面ばかりなのに、面白いんですよ。特に良かったのは、このご時世になかなか言いにくいところではあるのですが、女の子たちの写真を並べて「誰が良いか?」を言い合いながらチーム分けをするシーン。誰が誰にアタックするかをじゃんけんで決めたりとか、ホント最低なんですけれど、“男子の部活感”が出ていて微笑ましかったです。ところで、ルールがだいぶ複雑でしたが、皆さんちゃんと理解して参加している感じなのでしょうか?
山下:ルールは会議とかで話し合いを重ねて決めていったんですけれど、正直なところ、僕は途中からわかんなくなっちゃいましたよね(笑)。だから、何かをするときはいちいちルールブックを見ながらやっていました。
さやわか:女の子に「やめてください」と言われたら減点、というルールがありましたけれど、山下さんは撮っているときにまったく気付いていませんでしたね。あとからみんなで映像を見て、ようやく気付くという。あのシーンは熱かったです。ルールを厳格に守っているだけではダメで、攻められるときは攻めなければいけないんだけれど、やっぱり落とし穴にハマってしまう感じで。相手が、「これはキャノンボールだ」って気付いているのを前提としてホテルに行って、そこで相手に納得してもらってどこまでポイントを稼げるか、そのせめぎ合いが見えました。これは、アイドルがファンと築いている関係性とも似ていますよね。お互いに、「これはルールのもとにやっているプレイなんだ」ってわかりながら、どこまで行けるかを探っている感じで。
山下:僕が接した女の子の中では、あのシーンが唯一、山あり谷あり的なところでしたね。実は他にもたくさんビデオを撮っていたんですけれど、ほとんど何も起きなかったんですよ。基本的に、オーディションに落ちた女の子をターゲットにしているから、みんなテンションが下がっていて、うまく物語が進んでいかないんです。
さやわか:なるほど。例のホテルまで行った女の子のとき、山下さんは「情に訴えかける作戦」を実行していたじゃないですか? 「キャノンボールは大変なんだ、なんとか協力してほしい」っていう感じで。逆に、こういったシチュエーションで「情に訴えかける作戦」以外に、どんな作戦があるんですかね?
山下:お金とか、夢とかですね。カンパニー松尾さんは実際に、夢破れた子にまた新しい夢を与える作戦を実行して、「オーディションには残念ながら落ちてしまったけれど、君の次なる夢としては……」とか言ってAVデビューを勧めていたけれど、あの戦法は結局ダメですよ(笑)。
さやわか:あはは、あれすごい論理でしたよね(笑)。結局、女の子との間に「これはキャノンボールなんだ」っていう共通認識があった上で、協力してもらうしかない。BiSのプー・ルイさんなんかはもうわかりきっているから、交渉次第ではある程度サービスしてくれますし。その上で宮地さんがBiSHのアイナ・ジ・エンドさんにガチ恋したことを考えると、実はかなり複雑な話ですよね。まず、宮地さんは仕事として相手を騙さなければいけないというのがあって、アイナさんはそれに気付きつつもレッスンを頑張っていて、宮地さんはそのうちにガチ恋してしまって、「仕事とは別に、本当に好きだ」ってアピールするわけで、三重のレイヤーになっている。最後に現実を突きつけられて泣いてしまったのも、わからないでもないというか……。
山下:なるほど。僕はもうそういう感情をなくしてしまったから、彼の気持ちがよくわからないのかもしれません。アダルトビデオの撮影では、女優さんにちょっかいを出そうものなら、相応の手痛いペナルティがありますから、そういう感情を持たないようにして撮影を進めていくのが普通です。ちゃんと感情を切り離している。アイドルも、スタッフが惚れたりするのはタブーですよね?
さやわか:もちろん、完全にタブーです。ただ、アダルトビデオの世界の方がむしろしっかりしていて、地下アイドルとかになってくると本当にグダグダだったりして、Twitterでファンとのよろしからぬ関係性が暴露されたりとか、しょっちゅうあります。僕はそういう現場をよく知っているからこそ、宮地さんの気持ちがわかったのかもしれません。WACK代表の渡辺淳之介さんは、そういう風に二重三重に人の思惑が動いていくこと自体を見せたいのかなと思います。
山下「僕らは落ちてくるのを待っているワニ」
山下:WACKのオーディションに集まってる子たちは、他のアイドルを目指す子とはちょっと違うんですか?
さやわか:おそらく、少し違うと思います。例えばハロプロのオーディションを受ける子は、「ハロプロのアイドルになりたい」という具体的な像があって、言ってみれば「宝塚に入りたい」という感覚に近いんですよ。でも、WACKオーディションの子たちは、「とにかくアイドルになりたい」という感じで、目指しているアイドル像はそれぞれ違っているのかなと。だからこそ、『アイキャノ』の企画も成り立っているところがあって、それぞれが抱くアイドル像が違うから、ファンにしてあげられることの範囲も違っていて、そこに「ひょっとしたら、この子だったらワンチャンあるかも」という希望を感じさせるんです。
山下:僕らも「まあ、うまく行くことはないだろう」と思いつつ、そのガラスに小さなヒビさえ入れば、そこからこじ開けていくことはできるんじゃないか? とは思います。個々の性格を見ていると、これがオーディションの場じゃなければ……と感じる女の子は確実にいますね。たぶん、顔を隠しても良いと言えば、いける子はいたんじゃないかな? 結局、そういう女の子は自分のパーソナリティーがバレるのが怖いわけで、興味はありますから。
さやわか:そもそも、よく考えれば企画の成り立ち自体が不思議ですよね。悪魔合体的というか、なぜアイドルオーディションとキャノンボールを組み合わせたのだろうと。ところが、よく観ているうちに、実は理にかなっているような気もしてくる。オーディションに落ちた子を狙っていく感じとか、すごくAVの企画っぽいですし。
山下:僕らの役割は、女の子たちが橋を渡っている下で、池で落ちてくるのを待っているワニみたいな感じですよね。下からジーっと見てる(笑)。常に腹黒い気持ちで女の子たちと接していました。
さやわか:たしかに(笑)。女の子たちが泣いている時に、優しいフリをして順番に肩を叩いていくシーンとか、単純にゲームのポイントを稼ぎにいっているだけで。でも、アイドルの女の子たちだって、ファンのことが大事、大好きって言っていて、それは本気の部分もあるかもしれなけれど、仕事としてやっているという意味では同じだから、案外、おたがい様なのかもしれませんね。