過去の火曜10時枠とは真逆? 吉岡里帆主演『きみが心に棲みついた』は“依存の誘惑”をあぶり出す

 吉岡里帆が主演を務めるドラマ『きみが心に棲みついた』(TBS系)の第1話が放送された。天堂きりん原作のコミックを読み、ハードなストーリーにエネルギーが削られる覚悟をしていたが、やっぱり心がえぐられた。

 『逃げ恥』や『カルテット』をはじめ、いくつもの名作で「既成概念を超えてゆけ」「白黒つけず、グレーのままでいい」「“自分の正義を信じて進んで大丈夫!」と優しい世界を見せてくれたTBSの火曜10時ドラマ。なのに、いきなり「ありのままを受け入れろなんて傲慢だ」「お前は一生お前から逃げることはできない」と言われてしまった……。まるで、初めてありのままの自分を受け入れてくれた星名に翻弄されるキョドコのように、“なんでそんなひどいこと言うんですか?“と戸惑いを隠せない。だが、きっとその困惑にこそ、このドラマが今この枠で描かれる意味なのだろう。一度受け入れられた人だからといって、盲信してしまうことの怖さ。もっとフラットに自分を見つめる視点が必要なのではないか、と。

 なぜ、私たちは依存してしまうのか。そんなことを考えさせられる第1話だった。幼少期から親の愛を受けることができず、自分に自信を持てずにいた小川今日子(吉岡里帆)は、人に嫌われたくない、でもどうしていいかわからない……という行動が挙動不審に見え、“キョドコ“というあだ名をつけられてしまう。周囲との関係がうまく築けずにいたキョドコに「ありのままの自分でいいんだよ」と、人生で初めて自分を受け入れてくれたのが、星名(向井理)だった。ストレスを感じるたびに、三つ編みをいじるクセがあったキョドコ。それは、唯一母親からしてもらった“愛された思い出“。星名はその三つ編みをほどき、ストールをねじねじと巻いた。それは、キョドコにとって新しい“愛された思い出“となり、星名から逃げられない首輪となった。

 「ありのまま」というのは、非常に難しい言葉だ。なぜなら、人によってその概念が大きく異なるからだ。“何も努力をしない飾らないまま“という無知な状態をイメージする人もいれば、“自分はこうでありたい“というポリシーに迷いがない、無垢な状態を想像する人もいる。いずれにせよ「ありのまま」を受け入れてほしいという欲求は、自分の存在価値を認めてほしいという衝動。その根底には「ここにいていい」という許しを得たい感覚に近い。だが、その許しは、きっと本当の意味では自分自身にしか出せないのだろう。そして、その自信をつけるために、人から求められることを判断材料とする。その流れが逆転してしまうと、依存関係に陥ってしまうのではないか。他者に許しを得ようとすればするほど、期待に応えようともがけばもがくほど、自分で自分の「ありのまま」を見失っていく。

 キョドコも、星名に必要とされることで自分の存在価値を見出し、そして星名もどんなにひどいことをしても相手が応えてくれるかどうかでしか愛情を測れない。そんなふたりは次第に共依存へ陥っていく。キョドコの愛を測る儀式のような仕打ちはエスカレートし、ひどく傷つきながらも抜け出せない。だが、何をしたら愛されるのかわからないキョドコにとって、その苦痛に立ち向かうことが愛を得る方法なのだと提示されたら、そこにいる方が安定しているのだ。嫌だといいながらも、それ以外の方法がわからないこと。それが、依存という状態。

 そんなキョドコの前に、今度は飲み会で1杯目に堂々とウーロン茶を頼む男・吉崎(桐谷健太)が現れる。自分の考えを持ちながらも、周囲から浮くことなく行動できる吉崎を眩しく思ったキョドコ。「自分は自分で変えるしかないんじゃないの?」と、自然体にキョドコの存在を認識してくれた吉崎に、“この人なら、私を変えてくれるかも!“とまた依存していくのだった。

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