『監獄のお姫さま』には食べ物が欠かせない? 撮影現場にも仕掛けられた宮藤官九郎の“笑い”の罠

 現在、第8話まで放送中のドラマ『監獄のお姫さま』(TBS系)は、罪を犯した5人の女たちと、罪を憎む1人の女刑務官、決して相容れないはずの両者が心を通わせ、共にある男への復讐を行う模様を描いた“おばさん犯罪エンターテインメント”だ。10月にマスコミ記者取材会が行われた当時から、ドラマファンたちから大きな期待を寄せられていたのは、『逃げるは恥だが役に立つ』や『カルテット』といった話題作を飛ばし続けている「TBS火曜10時枠」のブランド力もさることながら、小ネタ満載でユニークな作風に定評がある宮藤官九郎の脚本であり、そのうえ小泉今日子をはじめとした実力派の女優陣が名を連ねていたからである。初回放送時は謎が多すぎて複雑な印象も受けたが、伏線が見事に回収されていくに連れて、徐々に熱狂的なファンも獲得しているようである。今回リアルサウンド映画部では、本作の第9話の撮影現場に潜入。その取材を元に、最終回を目前にして改めて本作の魅力を紐解いていきたい。

 撮影が行われていたのは、TBS緑山スタジオ。火曜ドラマ枠の礎を築いてきた制作陣が手掛けたスタジオのセットは、とてもリアリティのあるものだった。地面には、どこか砂っぽく錆びれた雰囲気があり、イメージ通りの“アジト感”が出ていた。また、スタジオのセットだけでなく、アイテムにも細かな工夫が施されている。宮藤脚本では、登場する一人ひとりのキャラクターが丁寧に作り込まれているのだが、その人物たちを劇中で活き活きと見せるためにも、周りのセットやアイテムは演出上の重要なポイントとなってくる。

 これまでの宮藤脚本作品を振り返ると、『ごめんね青春!』(TBS系)では舞台である三島市の名物「三島コロッケ」が、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)では居酒屋「鳥の民高円寺店」の焼き鳥や「ゆとりの神」と名付けられた日本酒が登場し、ドラマの鍵を握るアイテムのひとつとして機能していた。実際に、『監獄のお姫さま』でも誘拐された板橋吾郎(伊勢谷友介)が社長を務めるEDOミルクの「江戸っ子ヨーグルト」が、毎回ほとんどと言っていいほど登場しており、見学したシーンでも実物が使われていた。

 「江戸っ子ヨーグルト」は、元女囚たちが仇を取ろうとしている相手の吾郎が代表を務める会社・EDOミルクの商品である。元女囚たちは刑務所内でも、釈放された後の世界でも、「江戸っ子ヨーグルト」だけは食し続けていて、彼女たちにとって「刑務所」以外の唯一の共通点でもある。つまり、「江戸っ子ヨーグルト」は彼女たちのつながりや目的を象徴したキーアイテムなのだ。単にドラマへの愛着が湧くアイテムとしても効果があり、ネット上では実際の商品化を望む声も上がっていた。

 また、この日取材した第9話では、第8話で刑務所を出た千夏/財テク(菅野美穂)、馬場カヨ(小泉今日子)、洋子/女優(坂井真紀)、明美/姉御(森下愛子)の4人全員が再会する場面が描かれるのだが、その場には、「ゴーヤの浅漬け」「きんぴら」「チャンジャ」といった食品が並んでいた。刑務所内の食事メニューとは明らかに変化しており、彼女たちの中の“変わったもの”と“変わらないもの”が浮かび上がってくる。

 もっとも、ドラマの世界観を作り上げているのは、もちろん食べ物だけではない。撮影現場の取材でなによりも印象に残ったのは、なんといっても女優陣の演技の素晴らしさである。台本には、座っている時の姿勢や、歩くスピード、テンションの高さなどは一切書かれていない。役者ぞれぞれが、足を組んで座ってみたり、恐る恐る歩み寄ってきたりと、周囲の空気を読みながら演技を調和させていき、笑顔ひとつとっても工夫しているのが見て取れた。そうした細かい所作を「ドライ・打ち合わせ」で調整していく作業も、とてもスムーズであり、プロの役者たちの実力を肌で感じることができた。

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