『永遠のジャンゴ』監督が語る、実在の人物を描くために必要なこと 「感動した部分に焦点を当てる」

 ジプシーの血を引く伝説的JAZZギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの知られざる物語を描いた『永遠のジャンゴ』が11月25日より公開される。『涙するまで、生きる』『アランフエスの麗しき日々』のレダ・カテブがジャンゴ役を演じた本作では、1943年、ナチス・ドイツ占領下のフランスで毎晩のように満員の観客を沸かせていたジャンゴが、ナチスによるジプシー狩りによって絶望に打ちのめされながらも、新たな感情に目覚めていく模様が映し出されていく。

 監督を務めたのは、1990年代末からプロデューサーとして数多くの作品を手がけ、グザヴィエ・ボーヴォワ監督作『神々と男たち』(10)やマイウェン監督作『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(15)などの脚本を手がけてきたエチエンヌ・コマールだ。今回、リアルサウンド映画部ではプロモーションのために来日したコマール監督にインタビューを行い、監督デビューすることになった経緯や、ジャンゴ・ラインハルトの物語を制作しようと思った背景などについて語ってもらった。

「ジャンゴの一生を描くような伝記映画にするつもりは一切なかった」

ーーこれまで脚本家やプロデューサーとして映画に携わってきたあなたにとって、今回の作品は監督デビュー作となります。どのような経緯で監督に挑戦することになったのでしょうか。

エチエンヌ・コマール(以下、コマール):実はグザヴィエ・ボーヴォワ監督の『神々と男たち』のシナリオを書き終わった頃から監督をやりたいという気持ちが明確に芽生えていた。これまでプロデュースや脚本をやっていて、次のステップに進みたいという気持ちは常にあったんだけど、すぐに次の作品に取り掛からなければいけなくて、なかなか時間が取れなかった。それに、どんな題材でもいいというわけではなく、自分の監督デビュー作に適したテーマの作品である必要もあったからね。そんなときにジャンゴ・ラインハルトというテーマが見つかって、ようやく監督デビューできることになったんだ。

ーージャンゴ・ラインハルトという人物の存在が大きかったわけですね。

コマール:実はジャンゴという具体的なアーティストの名前が浮かんでくる前に、ひとりのアーティストが激動の時代をどう生き抜いてきたかというテーマで作品を撮りたいと思っていて、そのような人物を探していたときに、音楽好きの父がジャンゴの話をしていたことを思い出した。ジャンゴの戦時中の運命は、僕が描きたかったテーマと合致していたわけなんだ。

ーージャンゴという人物よりもテーマのほうが先行していたと。

コマール:最初は多くの人同様、若い頃にステファン・グラッペリとともにバンドを組んだ人物で、どちらかというとあまり社会で起きている現実に目を向けない生粋のアーティストというイメージをジャンゴには抱いていたんだ。ミュージシャンとしての活躍はもちろん知っていたけど、戦時中の彼の動向には気を止めたことが一度もなかった。だけど、戦時中の彼の行動を読み解くうちに、人物としての彼のイメージが大きく変わっていったんだ。それまでは軽やかな音楽を作り出す人物というイメージだったのが、弱さもあって傷ついていて、非常に深みのある人物だというイメージにね。僕はそこにとても感動したんだ。ジャンゴにとってこの時代は、それ以外の時代とは正反対だから、その時代を扱うのは非常に興味深いと思った。

ーー第二次世界大戦の時代を描いているのは本作の大きな特徴でもありますね。

コマール:彼の一生を描くような伝記映画にするつもりは一切なかった。確かにステファン・グラッペリとの友情やアメリカでの栄光もテーマにもなりうるけれど、そういうことにはまったく興味がなかったんだ。本であれば時代を飛び越えることもできるけど、映画となると長くて2時間半。面白い作品にするには、自分がその人物のどこに感動したか、その部分に焦点を当てることが重要になってくる。そこを掘り下げることによって、ジャンゴの個性がより浮かび上がってくるし、僕自身もジャンゴという人物を掴みやすくなると思ったんだ。

ーージャンゴの演奏シーンをしっかりと見せているのも印象的でした。

コマール:彼の音楽性を知ってもらいたいという思いがあったんだ。クリップのように細切れのようにして見せるやり方もあるけれど、それだと観ている側は欲求不満になってしまう。実際にライブ会場で感じるような、音楽に酔いしれる気分を再現したかったから、長さゆえの陶酔感を出すことを意識した。今回の演奏シーンはその時々で状況も変わってくるので、彼のその時々の思いや人間性が自然と浮き出てくるように、じっくりと見せたいという思いもあったね。

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