等身大の山崎賢人の姿がここにあるーー『陸王』大地役で見せた、若者の葛藤

 骨太な展開の連続から目が離せない日曜劇場『陸王』(TBS系)で、他の者たちに引けを取らない人間くささを見せている山崎賢人。ひとりの若者の葛藤を、等身大の演技で示している。

 山崎の出演するドラマは本作が2017年唯一の作品だが、今年は映画界での活躍がめざましいものとなった。“一週間で友達に関する記憶がリセットされてしまう”ヒロインのもとへ、爽やかに何度だって駆けていく長谷祐樹を好演した『一週間フレンズ。』では、まぶしいくらいに一途な想いにひた走る、積極的な姿を見せた。熱狂的な原作ファンの多い『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』では、それまでの王子様キャラのイメージを払いのけるような硬派な一面を披露。山崎が演じることでキャラクターの持つ根の優しさを垣間見せ、彼だからこその“東方仗助像”を作り上げた。続く少年ジャンプ連載マンガの実写化『斉木楠雄のΨ難』では、タイトルロールである超能力高校生・斉木楠雄を怪演。あまりに奇異なルックスも見事にハマり、感情を欠いた表情で狂言回しを務めつつ、ドライなツッコミで劇場を沸かせた。そして11月3日に封切られた学園ミステリー『氷菓』で演じている“省エネ主義”の折木奉太郎。クールな推理で仲間たちを真相に導き、やがてたどりつく苦い真実に、叫ばずにはいられない彼の姿が印象的だ。

(c)麻生周一/集英社・2017映画「斉木楠雄のΨ難」製作委員会

 主演した4本の映画ではいずれも大なり小なりエッジの効いた、どこか現実ばなれした観のあるキャラクターたちを演じてきた。それに比べると本作『陸王』で演じる“就職活動の合間に父親の会社を手伝う”大地というキャラクターは、いっけん地味な存在にも思えてしまう。 

「陸王」開発という新規事業に奮起する大ベテラン・役所広司や、文字通り身体を張っている同世代の俳優・竹内涼真らと比べても、たしかに地味な役どころではある。しかし、役所と築く父子関係や、寺尾聰と育む師弟関係、また竹内の姿に、父と同じく自分自身を重ねてみたりと、これらの関係に揉まれる複雑なキャラクターであり、役柄としても俳優としても面白いポジションに置かれていると言えるはずだ。

 番組公式インタビューで山崎は、「こはぜ屋の息子として育った大地ですが、父の後を継いで足袋作りをしていきたいという強い意志があるわけでもなく、かといって特別やりたいことがあるわけでもない」と中途半端な気持ちが就職活動に影響し、やりたいことが分からないまま悶々としている状態だと大地を分析。しかし、会社の未来のため、マラソンシューズ作りに奮闘する父親たちの熱意に触れ、大地にも変化が表れている。山崎は「大地と僕は同じ23歳なので、気持ち的にリンクする部分もあると思うんです。僕自身が日々思っていることなども大地に投影しながら、等身大で演じていけたらと思います」と語っていた。

(c)TBS

 ドラマ開始時から、「こはぜ屋」の熱気の中で山崎が放つシラけムードや気怠さは際立っていたが、物語が進むにつれ、その印象は変わり始めている。終始しかめっ面ぎみだった彼であるが、この頃は周囲の人間との関係に笑顔を見せるのだ。“まだ何者でもない”彼が、自らの存在を示しだし始めている証なのである。これからの変化次第では、2017年の山崎賢人の集大成的姿を見ることができるかもしれない。

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