明日とかどうでもいいーー太賀主演『ポンチョに夜明けの風はらませて』が描く“珍道中”の愉快さ
さて、なぜ彼らは、旅に出たのだろうか。なぜ、ロードムービーたる〈ロード=路上〉へと繰り出すことになったのだろうか。何かから逃げるわけでもなく、何かを求めるわけでもなく、お気楽な思いつきで「海でも行こう」となっただけである。彼らの即興的な自由さは、旅人たちの“生”が即興的に綴られた、ケルアックの『路上』とも通じ合う。グラビアアイドルの愛や、風俗嬢のマリア(阿部純子)らとの、ひょんな出会いによって、軽く目指していた海までの“道中”にいくつもの“珍”エピソードが発生し、“珍道中”となっていく。ひとつひとつのエピソードはまさに奇想天外なものであるが、俳優たちの血の通ったキャラクター造型によって、エピソードもまた血の通ったものとなっている。本作の主題歌であり、染谷も口にする「明日とかどうでもいい」という言葉が示す通り、彼らの“生”は今この瞬間のエピソードごとにきらめいて燃え尽き、画面のすみずみまで漲っている。オフビートにそれることなく、停滞することなく、ラストまでまっすぐに突き進むのだ。
愛が火種となり、彼らの移動の手段である「車」は、あるイミ原形をとどめぬものへとなっていく。最後まで姿を見せずもつきまとう、父親の象徴であり、〈マジメにこつこつ〉の象徴である「車」だ。彼らにとっては〈ロード=路上〉での“手段”であったが、父にとっては〈ロード=人生〉の“目的”でもあった。
やがて彼らはこの車を捨てるだろう。大人の言葉を無視して中田が「明日とかどうでもいい」と叫ぶとき、彼らもまたお決まりの移動手段である「車」を捨てるのだ。そしていよいよ本当の〈ロード=路上=人生〉へと、自分たちの足で、愉快にかけていく。
■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。
■公開情報
『ポンチョに夜明けの風はらませて』
新宿武蔵野館他にて上映中
出演:太賀、中村蒼、矢本悠馬、染谷将太、佐津川愛美、阿部純子、佐津川愛美、阿部純子、角田晃広(東京03)、佐藤二朗、西田尚美
原作:早見和真「ポンチョに夜明けの風はらませて」(祥伝社刊)
監督・脚本:廣原暁
製作:「ポンチョに夜明けの風はらませて」製作委員会(東映ビデオ/RIKIプロジェクト/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ)
企画・制作:RIKIプロジェクト
配給:ショウゲート
(c)2017「ポンチョに夜明けの風はらませて」製作委員会
公式サイト:poncho-movie.jp