『レゴ ニンジャゴー ザ・ムービー』が描き出す、アメリカ社会の親子問題

『レゴ ニンジャゴー~』が描く親子のテーマ

 『スター・ウォーズ』も想起させられる、本作のグリーン・ニンジャとガーマドンの敵対関係というのは、レゴ映画としては心配になるほど険悪に描かれる。ロイドは親子関係に終止符を打つべく、使用を禁じられている「最終兵器」を持ち出してしまう。ここから作品世界すら揺るがしかねない大変な事態になってしまうのだが、真に見るべきは、この親子関係における「最終兵器」という言葉の意味であろう。親子の対立のなかでロイドはついに、「あんたの子どもなんかに生まれてきたくなかった」という言葉をガーマドンにぶつけてしまう。関係に大きな亀裂を与えかねないこのショッキングな言葉こそ、子どもにとっての「最終兵器」と呼べるものである。もちろん、ここまで言わせてしまうまで、子育てに関わらずロイドに対して酷薄な対応を繰り返してきたガーマドンの罪はより重いのは確かだ。

 このような崩壊した家庭の姿が描かれるというのは、ざっくりとした調査で“夫婦2組のうち1組以上が離婚している”という、アメリカ社会の現状が背景にあるだろう。また、精神的に幼い親によって、子どもが受けられるべきケアが与えられなかったり、雇用状況の悪化などから、理想的な大人の姿を子どもに見せてやれないケースも、現実的には珍しくないはずだ。アメリカのラジオやTVドラマ『パパは何でも知っている』(1949〜)が象徴していたようなアメリカの明るい家庭像、理想の父親像など、もはやギャグとしか理解されないような状況である。

 社会のそういった現実は現実として受け止めた上で、子どもはそういう環境でどのように生きるべきなのだろうか。本作ではロイドとガーマドンはお互いに歩み寄っていくが、とりわけ注目するべきは、子どもの側が親を許していくという姿である。ロイドは父親に対する幻滅から憎しみを強めていくが、幻滅は期待の表れでもある。精神的な依存の関係から抜け出し、親を自分と同じステージに立った一個人なのだと理解するプロセスを経ることで、はじめて子どもは親という存在から精神的に脱却して、真に自立出来るのではないだろうか。本作の彼らの「和解」は、その先にあるのである。レゴ映画のシリーズは、その愛らしい見た目とは裏腹に、ここまで描いてくれるというのが頼もしい。

 さて、劇場版でウー先生の声を演じ、冒頭の実写パートにも出演しているのが、ジャッキー・チェンである。レゴ映画は、大人も楽しめるようなギャグが散りばめられているが、ジャッキー映画を見ていた世代にはたまらないシーンも用意されている。「ジャッキーはお父さんのヒーローだったんだよ」みたいに、一緒に映画を見に来た親は、一つの映画について子どもとゆっくり語り合い、交流を深める良い機会になるかもしれない。子どもの側も、ニンジャゴーのレゴを親に買わせる良いチャンスである。

■小野寺系(k.onodera)映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『レゴ ニンジャゴー ザ・ムービー』
新宿ピカデリーほかにて公開中
監督:チャーリー・ビーン、ポール・フィッシャー、ボブ・ローガン
脚本:ボブ・ローガン、ポール・フィッシャー、ウィリアム・ウィーラー、トム・ウィーラー、ジャレッド・スターン、ジョン・ウィッティントン
出演:
(字幕版)ジャッキー・チェン、ジャスティン・セロー、デイブ・フランコ、オリビア・マン、フレッド・アーミセン、アビ・ジェイコブソン、クメイル・ナンジアニ、マイケル・ペーニャ、ザック・ウッズ
(吹替版)松井恵理子、森嶋秀太、内田彩、橘諒、斎藤楓子、おおしたこうた、山寺宏一、一条和矢、沢城みゆき、出川哲朗
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. A LL RIGHTS RESERVED
公式サイト:http://legoninjagomovie.jp

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