映画『ギミー・デンジャー』公開記念 ドレスコーズ志磨遼平インタビュー
ドレスコーズ志磨遼平、映画『ギミー・デンジャー』を語る 「ストゥージズは僕の人生を変えてくれた」
「初期の毛皮のマリーズそのものという感じでした」
ーー今回の作品はジム・ジャームッシュ監督が『イヤー・オブ・ザ・ホース』以来約20年ぶりに手がけたドキュメンタリーというのも大きなポイントのひとつです。ジム・ジャームッシュの作品はよく観ていましたか?
志磨:ジム・ジャームッシュの作品は大好きです。それもまた20歳ぐらいの時に『ミステリー・トレイン』を観たのが一番最初でしたね。エルヴィス・プレスリーの楽曲にまつわるストーリーで、ザ・クラッシュのジョー・ストラマーとかスクリーミン・ジェイ・ホーキンスが出てて、しかも日本人の永瀬正敏さんと工藤夕貴さんが主演というので、なんか面白そうだなと思って観たんです。永瀬さんがいつも靴を磨いてるのとか、ジャケットの内ポケットにジッポをスポッと入れるシーンとかすごくクールで。とても好きな作品です。『パーマネント・バケーション』『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ダウン・バイ・ロー』の初期3部作も大好きですし、『デッドマン』『イヤー・オブ・ザ・ホース』『コーヒー&シガレッツ』も観ましたし。僕はこの監督だから観る、とかこの俳優さんが出てるから観る、みたいなスタンスで映画を観ることがあまりないので、ジャームッシュは珍しく作品のほとんどを観ている監督のひとりですね。
ーー『デッドマン』と『コーヒー&シガレッツ』にはイギー・ポップも役者として出ていますよね。
志磨:ただのイギー・ポップでしかないんですよね(笑)。あまり器用な役者とは言えない。でも、今回の『ギミー・デンジャー』で最後に「どこにも属したくない。俺は俺だ」というようなことを言ってましたから、まさしくそのとおり、という感じ。だってボウイですらイギーを完全にコントロールすることはできなかったわけですからね。
ーー最後のイギー・ポップの言葉は力強かったですね。『ギミー・デンジャー』は映画としてどうでしたか?
志磨:ジャームッシュがストゥージズを撮る、ということでものすごく期待していましたが、まったく裏切られなかったですね。編集のテンポもよくて面白かった。あとはやっぱりどうしても、まるで自分のことのように観てしまった。かつて一度でもバンドを組んで、レコードを出したりツアーに出たり、といった思い出がある人なら、きっと感情移入というか、自分の記憶とごっちゃになってしまうところがあると思います。メンバーとの共同生活だったり、客のほとんど入らないツアーだったり。ベロベロの酔っ払い相手に歌ったり、そんな環境で演奏したことがある人だったら、みんな映画1本撮れるぐらいのドラマがきっとあるんですよね。ただ、それがストゥージズのドラマで、それをジャームッシュが撮ったとあれば、そんなの観たいにに決まってるわけで。観ながら僕も「あー……」という感じで、いろいろ思い出したり反省したりしました(笑)。
ーー共感できるポイントもたくさんありそうですね。
志磨:いろいろありますよ。元ドラマー、とかね。プライマル・スクリームのボビー(・ギレスピー)もそうですけど、僕もキャリアの最初、10代の頃はドラマーだったので。他にもレコード屋さんでアルバイトしてたりとか、実家の近所に鉄工所があったりとか(笑)、共通項はたくさんありました。あと映画の中でイギーの口から語られて「そうだったのか!」と思ったのは、MC5のおまけみたいな感じでデビューが決まったっていう。ストゥージズには結局日が当たらないんですよね。MC5の金魚のフンみたいな感じでデビューが決まって、レコードを出してもツアーに出ても華々しい生活が待っているわけでもなく、フラストレーションが溜まって、それがまたステージに還元されて、どんどん自虐的なパフォーマンスがエスカレートしていく。そのなかで疲弊していくメンバーもいれば、三行半を突きつけて実家に帰るメンバーもいて。本当に初期の毛皮のマリーズそのものという感じでした。
ーー当時の志磨さんにとって、ストゥージズのMC5にあたるようなバンドの存在というと?
志磨:そういう存在はその時その時でたくさんいましたよ。肩を並べてたはずが、どんどん先に脚光を浴びて、羨ましいな思っていたのはTHE BAWDIESだったりザ50回転ズだったり。毛皮のマリーズは最初のツアーをザ50回転ズと一緒に回ったんですけど、最初はお客さんがガラガラの状態で地方を回っていたのに、ツアー中に彼らがテレビで紹介された途端、ファイナルの東京公演のチケットが売り切れて。僕たちは「あれ?」っていう感じで。急にライブ会場がザ50回転ズのお客さんで埋まって、妬ましく思ったりもしていましたね。そうするとこっちもパフォーマンスに拍車がかかって、誰にも望まれてないのに出血したり骨を折ったり(笑)。ゴミ箱を頭からかぶってダイブしたり、最後には音が出る楽器がひとつもない。全部壊しちゃって。これぞ東京のストゥージズ(笑)。
ーーまさにですね(笑)。劇中で特に印象に残ったエピソードは何ですか?
志磨:トレーラーにも入ってましたが、ライブ中に瓶を投げてきた観客に対して、イギーが「俺の頭に瓶を投げた奴に感謝する。死に損なったから来週またトライしろ」って言うの、あれカッコいいですよね。あと、曲を書く者として興味深かったのは、25語以内で曲を仕上げるというエピソード。「ボブ・ディランなら『だらだらだら……』。俺はごく短く、1語も無駄がないように『No Fun. My Baby, No Fun』」っていう。あそこだけでもう観る価値があるなと思いましたね。ただバカなんだと思ってた(笑)。
ーー(笑)。そういったイギー・ポップ本人から語られるエピソードも観ていてまったく飽きないですよね。
志磨:イギー本人もきっと、相手がジャームッシュだから話すことができたというのもあったんでしょうね。映像自体も、当時の珍しいライブが観れたり、所々の回想シーンでアニメーションが入ったりするのもシニカルで滑稽な感じがジャームッシュならではで、とてもよかったですね。