“爆音上映”の仕掛け人・樋口泰人が語る、その醍醐味 「観客と一緒に、映画を作り直す感覚」

“カナザワ映画祭”とYCAMの関係性とは? 

――ちなみに今年は、通常の“爆音映画祭”のほか、“カナザワ映画祭 at YCAM”という形でも、樋口さんが音響監修する爆音上映が行われました。これは、どういう経緯?

樋口:あれは、杉原さんが、小野寺さんにお願いしたの?

小野寺:いや、僕が杉原さんにお願いして。そう、杉原さんのことは、その前から樋口さんに聞いていて。

杉原:僕も小野寺さんのことを、樋口さんから聞いていました(笑)。

――やはり、樋口さんがキーパーソンなのですね(笑)。

小野寺:だから、山口にこういう人がいて、こういう施設があるんだっていう話は、なんとなく以前から頭の片隅にあって。で、去年の9月に、カナザワ映画祭が終わったあと、高崎で全国コミュニティシネマ会議があったんですけど、そこで杉原さんを見つけて、「やらせてください」って、僕がお願いしたっていう。そんな感じでしたよね?

杉原:そうですね。僕がオーディトリウムにいた頃から、カナザワ映画祭のチラシは置いていたので、そのチラシを見るたびに、すごい面白そうなラインナップだなと思っていました。何か一緒にできないかなっていうのは、実はその頃から思っていたんですよね。

小野寺:そうだったんですね。

杉原:そこからいろいろあって、YCAMにくることになって……で、YCAMは、先ほど言ったように、僕が来る前から、樋口さんと一緒に“爆音映画祭”をやっていて。ここの環境は、すごい音がいいですよっていうのは、東京にいた頃から樋口さんに聞いていました。で、そのあと、たまたま自分がここにきて、映画担当をやることになって、カナザワのプログラムをYCAMの環境でやってみたいなっていうのは思っていて。その上で去年、たまたま自分も参加していたコミュニティシネマ会議で、小野寺さんにお会いすることがでできました。

――ちなみに、その“全国コミュニティシネマ会議”というのは?

杉原:全国の小さな映画館とか公共施設で上映をやっている人たちが、年に一回、全国から集まる会議があるんです。それにたまたま自分も呼ばれて行ったんですけど、小野寺さんもパネリストでいらっしゃっていて。全国の映画館の人間と会う機会というのは中々ないので、年一のその会議のときに……というか、その夜の飲みの場とかで、いろいろと情報が回ったりするようなことがあって(笑)。なので、直接のきっかけは、そこになりますね。

――カナザワ映画祭の爆音部門をYCAMでやることになり、今回のラインナップは、どのように決めていったのですか?

小野寺:とりあえず、『シン・ゴジラ』を爆音で観たいなと思いました。あと、『この世界の片隅に』は、普通の映画館で観ても、高射砲の音とかすごくて、日常の音も細かく入っていたので、これは爆音向きだなと。で、『野火』も、爆音で観たいなと思っていたんですけど、その3つは、テーマが“日本の戦争”なので、そこから『トラ・トラ・トラ』、『ハクソー・リッジ』と広げていった感じです。本当はそこに、『ラストエンペラー』と『太陽の帝国』も加えて、“日本の現代史”みたいな感じでやりたかったんですけど、そのへんは諸事情がありまして(笑)。

YCAMに来れば爆音のすべてがわかる 

――実際、YCAMで爆音上映をやってみて、小野寺さんの感想は?

小野寺:僕は今回、初めてYCAMに来ました。個人的に、自分の観たい映画を上映するというモチベーションでカナザワ映画祭を続けてきたので、観たい映画を最高の施設で観ることができて、大満足ですね。本当に、ありがとうございました。

杉原:いえいえ、こちらこそ(笑)。

――樋口さんは?

樋口:ちょっとカナザワ映画祭の話とはズレるんですけど、ここまで何年間かYCAMでやってきて、毎年やっぱりいろんな実験をしているんです。スピーカーの数を増やしたりとか。3年前に天井のスピーカーをつけて、去年から床下につけて、今年はスピーカーの数や位置は、ほぼ変えてないんですけど、スクリーンをでかくして、いちばん前の3列ぐらいを床下に沈めた。そのせいか、去年よりも音が良く聴こえるようになった気がするというか、やっぱり視覚と聴覚って関係しているんですよね。そのどっちかが変わると、そのバランスで観え方/聴こえ方も変わってくる。これまでは、ずっと聴覚のほうを変えることをやってきたんですけど、今年視覚をちょっと変えてみたら、この場所がさらに良くなったような気がします。

――なるほど。毎年、ちょっとずつセッティングを変えているわけですね。

樋口:そういうことって、映画館だとできないじゃないですか。スクリーンのサイズも決まっているし、スピーカーが置ける場所も決まっているから。その意味で、この場所は、毎年いろんなことを試しながら、ベストなものを探っていけるんです。実は、その過程こそが、いちばん面白かったりする。そうやっていろいろ実験ができる場所というか、それに応えてくれるスタッフがいるのは、めちゃくちゃありがたいことなんですよね。ここでの経験を踏まえて、またいろんな場所でやることが考えられるっていうのもあるので。だから、今、いろんな場所で、爆音上映をやっていますけど、一度ここにきてみてほしい。ここの音がベースになって、他に散らばっているんだっていうことは、ちゃんと言っておきたいですね。そういう意味で、ここは出発点であり、ここに来れば全部わかるみたいな場所なんです。なので、是非一度、足を運んで、その身体で体験してみてほしいですね。

(取材・文=麦倉正樹)

■山口情報芸術センター
【YCAM爆音映画祭2017】
8月24日(金)〜27日
監修:樋口泰人(爆音映画祭・boid主宰) 
主催:山口市、公益財団法人山口市文化振興財団 
後援:在日アメリカ合衆国大使館、山口市教育委員会 
助成:平成29年度 文化庁 文化芸術創造活用プラットフォーム形成事業 
協賛:獺祭、コカ・コーラ ボトラーズジャパン 
協力:Japan Society(N.Y) 
技術協力:YCAM InterLab 
企画制作:山口情報芸術センター[YCAM]
公式サイト:http://www.ycam.jp/cinema/2017/ycam-bakuon-film-festival/

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